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創作に役立つ用語辞典「帝国の墓場」

2021年8月、アフガニスタンから米軍が撤退したことが報じられた。日本ではそれほど大きな話題にならなかったが、世界を物語るタイプの創作を行なう人にとっては、注目すべき重要なニュースだ。

というのも、アフガニスタンは「帝国の墓場」と呼ばれる場所だからだ。このキーワードは"熱い"。

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西にイラン、東に中国やモンゴル、北にはロシア、南東にインドとパキスタンが位置するアフガニスタンは、かつては「文明の十字路」と呼ばれた要地であった。時代時代の帝国は、その領土を拡大するうえでアフガニスタンに侵攻し、そして去っていった。

「帝国の墓場」という呼び名は、アフガニスタンへ侵攻した帝国が、その後終わりを迎えることを表している。ただ単純にアフガニスタンから撤退するだけではなく、覇権を失い衰退したり、時には滅亡したりすることを繰り返した。

紀元前11世紀ごろからガンダーラ王国の一部であったこの地域は、紀元前6世紀にペルシャ帝国(アケメネス朝ペルシャ)の一部となった。ペルシャ帝国は紀元前5世紀に古代オリエント世界の統一を果たすが、紀元前4世紀にはアレキサンダー大王の侵入により滅亡する。

そのアレキサンダー大王もアフガニスタン侵入の7年後に死去。帝国は分裂、アフガニスタンはシリア王国(セレウコス朝シリア)の一部となる。その後マウリア朝インド、クシャーナ朝(クシャン帝国)、サーサーン朝(ペルシャ)、突厥(トゥルク)などの支配を受けた。

12世紀にはゴール朝が起こるが、13世紀にはホラズム・シャー朝に滅ぼされ、そのホラズム・シャー朝もモンゴル帝国に征服される。しかし5年後にはモンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハンが死去、アフガニスタン各地は独立する。

14世紀末、1370年ごろにはティムール朝の支配を受けるが、ティムール朝は1507年に滅亡。16世紀にはサファヴィー朝イラン、スール朝、ムガル帝国が支配した。

18世紀にはパシュトゥーン人により、現代のアフガニスタンへとつながるホータキー朝が起きる。サドーザイ朝、バーラクザイ朝を経て、アフガニスタン首長国となる。

19世紀には、中央アジアの覇権を争う大英帝国(イギリス)とロシア帝国がアフガニスタン争奪を巡り戦略的抗争を繰り広げる。この抗争はチェスになぞらえて"グレート・ゲーム"と呼ばれた。

1838年からの第一次アフガン戦争でアフガニスタンはイギリスに勝利するが、1878年からの第二次アフガン戦争ではイギリスに敗れ、イギリスの保護国となる。

第一次世界大戦後の1919年にはイギリス領インド帝国に侵攻した第三次アフガン戦争で勝利して独立を果たし、その後アフガニスタン王国となった。イギリスは第三次アフガン戦争の7年後、1926年に連邦王国に改編された。

1979年にはソビエト連邦がアフガニスタンに侵攻。この戦争は10年に渡って続き、1989年にソ連は撤退。ソ連はその2年後、1991年に崩壊した。

2001年にいわゆる"9.11"、アメリカ同時多発テロ事件が起きると、当時のジョージ・W・ブッシュ政権は"テロとの戦い"を宣言し、テロを起こしたアルカイダを匿っているとしてアフガニスタンに侵攻。当時のタリバン政権は崩壊し、米軍の駐留が始まった。

それから20年。2021年8月いっぱいでの米軍撤退を目前とした8月15日、タリバンが首都カブールの大統領府を掌握。再びタリバン政権が復権した。

世界各地に進出し、かつては「世界の警察」と呼ばれた米軍だが、アフガニスタン撤退に続き、2021年いっぱいでのイラクからの撤退(戦闘任務終了)も表明している。

なおタイトル画像はリアルタイム戦略シミュレーションゲーム『Age of Empires Definitive Edition』のキャンペーンシナリオ"ギリシャの栄華"より。このシナリオは、アレキサンダー大王によるアケメネス朝ペルシャへの侵攻で完結する。シナリオ冒頭で示されるペルシャの支配地域には、当然アフガニスタンが含まれている。

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