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創作に役立つ用語辞典『ベーリンジア』

今回はアラスカのお話。

「説明されなくてもアラスカくらい知ってるよ!アメリカの州でしょ!」という声が聞こえてきそうだけど、アラスカがアメリカの土地になったのは1867年のこと。当時のロシア帝国からアメリカが買収した。

18世紀はじめにベーリング海峡が発見されるとロシア人はシベリア以東の開拓に乗り出し(ラッコの毛皮で儲けつつ)アラスカに定住するようになったという。

アメリカが買収したあとのアラスカは、1912年に"アラスカ準州"(という聞き慣れない存在)になり、今の"アラスカ州"となったのは1959年で、第二次大戦後のこと。

世界中の土地はどこかの国に属し(南極を除く)、昨今国境が変わることはなかなかないけれど、ちょっと前まではそうでもなかったのだ。現在の竹島や北方領土などの領土問題を見れば、誰もが「日本や韓国、ロシアも決して一歩も譲るわけがない」と思うところだが、100年前ごろまでは"都合"により国土が売買されていた。

ロシア帝国の都合とは敗戦後の国家財政の逼迫と、当時の覇権国イギリスには渡せないというもの。しかし、その後アラスカでは油田や金鉱が見つかり、やがて新たな覇権国となるアメリカとソビエト連邦時代のロシアは、ベーリング海峡を挟んだ目と鼻の先で対峙することになる。

大して重要でもない遠方の土地だからといって、手放してしまうとその後なにが起きるかわからない。ロシアはそれを学び、今も薄れるわけがない痛みとなった。日本に対しても北方領土を(二島だけでも)そんな簡単に返すわけがないことを、"僕ら"はわかっていたはずだ。

利益や将来性、安全保障の都合だけでなく、今や、どんなに"つまらない土地"だったとしても、手放せばそれだけで国民の強い反発を避けられないという側面もある。こうして領土の売買などほとんどの国で考えられない状況となっているが、しかしこの"保守性"は、歴史の積み重ねを経て培われた現代ならではの感覚とも言える。

フィクションで独自の世界、特に古い時代を描くとき。もしもそこに様々な国々が存在するとしたら、この現代の感覚は持ち込まない方がいい。あるいは"先見の明"がある宰相や軍師など、特別な人物にだけこの感覚を持たせるのは賢いやり方だ。

もっとも現代においてもこの感覚がない人はいて、2019年にトランプ大統領はデンマークにグリーンランド買収を持ち掛け、拒否されている。

なおアラスカといえば、かつてユーラシア大陸と陸続きだったため、アフリカで生じた人類が南北アメリカ大陸へと渡る架け橋になったことでも知られる。

今はベーリング海峡と呼ばれるその場所は、1万年前まで続いた氷期に海面が低下し、平原が広がっていた。ベーリンジア、ベーリング地峡と呼ばれるその土地を通じて移動したのは人類だけでなく、動物たちもだという。

例えばマンモスも人類と同じくアフリカで生まれ、ベーリンジアを通じて北米大陸にまで生息域を広げた。逆に、馬は北米大陸の草原・森林からアジア、ヨーロッパへと進出していった。

ただし発祥の地である北米において、馬は絶滅している。約1万年前のことだ。人類が初めて野生の馬を飼いならすようになったのは紀元前2000年ごろとされ、場所は現在のイランのあたりの草原だったという。

人や動物たちの進化や移動の経緯は、もちろん化石の出土などによって推測され、知られるようになった。それもまたそんな大昔のことではないことは、すでに触れたとおりだ。





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