明日はわが身『職場問題グレーゾーンのトリセツ』
世の中の変化に法律が追いついてない。多くの職場で「業務指導しただけでパワハラ?」「テレワーク中の怪我は労災?」「会社支給のスマホを壊したら弁償?」「そもそも副業ってどうなの?」など、働く側も雇う側も戸惑ってばかりだ。こういった事案を“職場問題グレーゾーン”と定義し、その疑問に実務経験豊富な社会保険労務士が丁寧に答えていくのが本書だ。
「もうすぐ育休復帰する後輩が第二子妊娠の報告。何だか素直に喜べません。」
「退勤後も上司からLINEで業務指示!リラックスできません。」
「会社に内緒で副業を始めたらしい同僚。バレないんでしょうか?」
モヤモヤしてるだけなら、まだ幸せだ。実際には知らないうちに加害者になっているかもしれない。明日部下から「パワハラで訴えますよ!」と言われる可能性もある。本書によると、パワハラ上司に限って「熱意ある指導」と思いこんでいる場合が多いらしいのである。どうだろう?いま首筋に冷たいものを感じた方もいらっしゃるのではないだろうか。他にも「え!こんなことが?」という行為が懲戒処分にあたるケースもある。
労働契約を結んだ段階で労働者は会社に対して「職務専念義務」を負い、その対価として給与の支払いが行われることになっている。仕事上の必要があったとしても第三者からは何のためにスマホを触っているのかがわからないため、基本的に私的利用は控えたほうが賢明だという。実際に戒告処分を受けた例もあるというから驚きだ。
加害者になるリスクという点ではSNSも今の時代には欠かせない観点だ。本書では第1章の「就業規則・社内ルール」の8番目に「つい会社の不満をSNSに書いたら、クビになりました!」という相談を紹介している。実際、解雇もありえるそうなのだ。現代は情報発信のハードルが低くなったが、その影響力の大きさは理解しておくべきだろう。
ここまではうっかり加害者になるリスクを書いてきたが、逆に被害者になるリスクもある。もちろんその時には法律が守ってくれるケースが多い。いずれにしても「何がセーフで何がアウトなのか」知っておくことが大切だ。本書の75のグレーゾーンを読んでおけば、何よりも安心して働くことができるようになる。そんな事例をいくつか紹介してみたい。
スマホの登場を境に、仕事とプライベートの境界線が曖昧になった。上司からSNSの友達申請がきてギョッとしたことはないだろうか。SNSまで監視されているような気分になってしまう人もいるだろう。これについては「ソーシャルハラスメントの可能性もあるので、気が乗らないことは伝えましょう」と著者は答えている。
とは言っても、なかなか対応が難しいかもしれない。しかし明確な基準もある。退勤後の上司からのSNSを使った業務指示については明確にNoだ。時間帯や曜日を問わず、LINEやメッセンジャーで対応を迫られて苦しんでいる人は多いのではないだろうか。「会社の指揮命令下で仕事をすれば労働時間です」著者の答えは明確だ。
本書には付録として「困ったときの相談先」「トラブル時の解決手段」が付いているのも心強い。まずは自ら対応をして、なお解決しない場合にはぜひ力を借りてみるといいだろう。変化が激しい現在、同じ悩みを抱える人は多い。一人で抱え込まないほうが賢明だ。そんな人にとって本書は、暗いトンネルの先に見える一筋の光のような一冊といえる。
このようなSNSの事案と並んで線引きが難しいのが「労災認定」だ。私は本書を読むまで、仕事後にスーパーで買い物をした帰り道に交通事故に巻き込まれても労災になるなんて知らなかった。スーパーの買い物が「日用品の購入その他これに準ずる行為」の移動として判断され労災になるケースがあるそうなのである。知っておいて損はない。
労災については驚くべき事例も紹介されていた。社内階段で転倒した際に健保を使うよう指導されたというのである。これなどは明らかに「業務災害」だ。以前、職場の後輩が階段でケガをして労災申請する際に下手な絵を描いていた。本書のコラムによると、著者も労災申請の絵が苦手のようだ。後輩の可笑しな棒人間の絵を思い出し吹き出してしまった。
これまでに引用した個所が全てスマートフォンに関わる部分だったことに、いま気づいた。紹介の仕方が偏ってしまったかもしれない。他にも、育児休業やテレワーク、休日出勤やテレワーク、マタハラやパタハラ、副業をめぐる疑問などが紹介されている。実際に相談を受けた事例をもとに書かれているので非常に役に立つ内容だ。
ネット書店の目次には「75個の職場問題グレーゾーンの疑問」全てが列挙されている。気になった方は、ぜひ閲覧してみてほしい。そこには、誰しも一度はモヤッとしたことがあるテーマが並んでいると確信する。激流の時代。一人でも多くの人が安心して働くことができるように、人事担当者だけでなく働く全ての人に読んで欲しい一冊だ。
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