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そのボタン押したらメタバース5月28日

そろそろ夜明けかなという朝の5時ころだった。

ほとんどの人は寝てる時間なのでシーンと静まり返っている。

施設内でも起きているのはちょっと寝ぼけた宿直係ぐらいなもんだ。

最近はどこの施設でも警備会社の警報器がついている。

各フロアーにある赤いボタンを押したら火事だということで警備会社に連絡が行く仕掛けになっている。

連絡をすると言っても人間がするのではない、コンピューターがするのである、自動でね。

その赤いボタンさえ押さなければ何も起きない。

でも、その赤いボタンは人間ではないから、とにかく押されれば火事だということになってしまう。

ちょっと寝ぼけた宿直がつまずいて、その赤いボタンを押したとしても、火事だと認識して警備会社に連絡がいく。

警備会社は折り返し施設に電話をするけれども、

施設ではわんわんぎゃんぎゃん警報が鳴って大慌てになっているので電話になんか出る余裕がない、

電話に出ないから大変なことになっていると警備会社は認識して、すぐに消防署に連絡をする。

施設中の警報機が鳴りまくるわ、消防車がやってくるわ、大変な騒ぎになってしまう。

それなりにこの辺りでは大きな施設だから、しかも住人は殆どは車椅子動けない、これは大変だ。

一気に何10人も焼け死んじゃうぞということで、その市内の消防車が全部やってくる、梯子車も当然やってくる、あっという間に辺り一帯は大騒ぎになる。

ただ、寝ぼけてボタンを押しただけなのに。

不幸中の幸いもある、こんな大騒ぎになっても、ほとんどの住人はのんびりしている。

認知症になってるからね。

びっくりして慌てているのは10人に1人もいるかいないか。

九割以上は落ち着いている、ぼーっと見ていると言った方がいいかなぁ。

慌ててしているのは宿直だ。

近くに住んでいる職員も大騒ぎで飛んでくる。

間違って押した時は慌てないで、今の警報は間違って押しただけですのでと、

備え付けの直通電話があるはずだから、それで警備会社に連絡すれば事なきを得たのだけれども、

警報ブザーやベルがワンワンワンワンなるし慌ててしまって、どうしたらいいかわからなくて、とにかくえらいこっちゃでも、

こんな騒ぎを覚えているのは10人もに1人もいるかな

さて、その日の夕方

今朝は大変だったわねと言っても、10人のうち9人は私がいないうちに大変なことが起きたのねと言ってニコニコ笑っているだけである。

だから、認知症っていうのは本人にとっては幸せなのかもしれない。余計なことは忘れられるんだから

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