見出し画像

「ひとりぼっち」と言う言葉を聞くと不安に駆られる。人はみな、ひとりじゃないんだ。二本の棒が助け合っていると書いてヒトと読む。

人という字は二本の棒が助け合っている
と言う意味だと聞いたことがある。
”ひとりぼっち”と言うことを言葉を
聞くと不安に駆られることがある。
離婚して5歳の娘と二人暮らす英子は
税理士事務所を開業した。しかし、とくに
事務所はない。娘と暮らすマンションが
事務所なのだ。顧問先は3軒の小さな会社だけ。
「この世界で独立してやって行くには
最低10軒の顧問先を持たなくては」
そう先輩の税理士に言われたことがある。
顧問先3軒ではマンションの家賃を支払うだけで
精一杯なので英子は、経理専門学校の講師を
して何とか暮らしている。そんな英子に
「俺と一緒に事務所やろうや」
と言う若い男性の税理士や
中には下心見え見えの
「苦しいときは、いつでも相談に来なさい」
と言う中年男性の税理士先生は多い。
でも、
「男は信じられないから」
と離婚のショックの癒えない英子は、
自分に言い聞かせて断っている。
生活は苦しいし、女だと軽く見られるし、
つらい毎日だ。そんな涙に暮れる夜に
思い出すのは、幼い頃のことだった。
 
英子が幼稚園のころだった。
いつものように台風が近づき
雨が強くなると担任の先生が英子を呼んだ
「英子ちゃん、早めに帰りなさい」
その先生の言葉に従って、クラスの誰よりも
早くカバンを肩から提げて赤いレインコートの
英子は家路を急いだ。
そのころの英子の家は、大雨になるとすぐに
床上浸水する低地にあった。
子供の足で40分くらいの所に英子の家はあった。
急いで駆けたつもりだったが、知らず知らずのうちに
腰のあたりまで水に浸かっていた。
「おかあさん」
と泣きながら英子は道路脇のフェンスに捕まりながら
何とか前に進んだ。いつもなら、もうそろそろ
お母さんが迎えに来てくれるはずなのだが
いっこうに現れる様子はない。
そうこうしているうちに、胸の下まで水に浸かってしまった
「ああ・・・もうダメ。おかあさん」
と叫んだ英子にザブンザブンという音が後ろから聞こえた。
英子が振り返ると、となりに住んでいる早苗ちゃんだった。
黄色いレインコートの早苗ちゃんは、英子と同じように
フェンスに捕まりながら英子の数メートル後ろを歩いていたのだ。
「オーイ」
と早苗ちゃんは元気に手を振った。
早苗ちゃんもいるんだ。ひとりじゃないんだ・・
そう思った途端、英子に勇気が湧いてきた。
お母さんが迎えに来てくれたのは、それからしばらくしてからだった。
 「ひとりじゃないんだわ・・・そう自分で思いこんでいるだけ」
幼い頃の想い出を思い出しながら、英子は幼い娘に目を向け
「そう、この子のためにも・・・」
とポツリ呟いた。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?