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オテンバ・ガール。子供が育って、大人になっていくのは当たり前の話だが、もう一つ、親もいろいろ苦労して大人になっていく。そこが人間の凄いところ。

大学1年生の祐輔と薫子が、結婚したのは
祐輔が大学に入学して間もない頃だった。
高校時代から付き合っていた二人は、
薫子のお腹に赤ちゃんができたので、
結婚することになった。
両家の両親の一番心配していたことが
現実となったわけだ。
祐輔の両親としては、せっかく大学に
合格したわけだし、将来、仕事につく
にしても大卒と高卒では、大卒の方が
有利と考えたのだろう。祐輔が
卒業するまでは生活費を援助すると
言ってくれた。
そんな二人に、女の赤ちゃんが産まれた。
名前は玲奈ちゃん。
無事、産まれた玲奈ちゃんだったが、未熟児だった。
1700グラム。
担当の医師からは3000グラムになるまで、
入院するように言われた。しかし、
入院している1ヶ月間に、玲奈ちゃんの身体に
障害が見つかった。
「腎臓に欠陥がありますので、1歳までに手術をしないと、
その後の生命の保証もできません」
と担当医は宣告した。
「こんな小さな身体にメスを入れるなんて」
祐輔と薫子は、可愛そうで可愛そうで
一晩中、涙が止まらなかった。
「先生、せめて、俺の血使ってくれませんか。
俺も玲奈もBです。俺の血なんか全部使ってもいいから
玲奈を助けてやってください」
そう目を真っ赤にして言う祐輔に、担当医はクールに言った
「両親の血液は、赤ちゃんの輸血には不向きです」
他人の血液の方が良いと言うのだ。
何の役にも立てない未熟な父親・・・
祐輔は、何度も何度も自分自身を罵った。
「せめて、玲奈の手術費は自分で稼ごう」
祐輔は、両親にわけを話して、大学を辞めて
大手電器ショップで働き始めた。
薫子は、朝から晩まで玲奈ちゃんに付きっきり。
二人ともストレスが溜まるなんか言ってられない。
1年後、玲奈ちゃんの命はないかもしれないのだ。
10ヶ月間、手取り17万円の給料のうち、10万円を
手術費として貯金した。ギリギリの生活だった。
食費などは両親にも助けてもらったが、
それでも、今まで優しい両親に守られ何の苦労もしなかった
祐輔も薫子もとっては大変な苦労だった。
とうとうやってきた手術の日、祐輔と薫子は4000グラムに成長した
玲奈ちゃんを交互に抱きしめて看護婦さんに手渡した。両家のお父さんもお母さんもやってきて、二人を励ましてくれた。
「大丈夫・・・大丈夫」
みんな口々に唱え合った。
3時間後、担当医が手術室から現れた。
「油断はできませんが、うまく行きました」
二人の19歳の苦労が実った瞬間だった。
玲奈ちゃんは、それから半年、体重は6000グラム。
後遺症で、おでこの辺りに赤い湿疹はあるが、ヨチヨチ歩きの男の子もビックリするほど元気なオテンバ・ガールだ。

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