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10代の頃は、夢のためにどんなことでもやりとげられるような気がした。ほんの小さなきっかけさえあれば、とてつもないことをやってのけることができる。

高校1年生の健司と通は、幼稚園からずっと
同じ学校に通っている。ハッキリ言って
兄弟や親よりもお互いのことを知り尽くしている仲だ。
健司は、中学1年生の頃から憧れていた有紀と
仲良くなるキッカケが欲しかった。
同じクラスにでもなれれば良かったのだが、
ずっとクラスは別だった。そんな健司と有紀の
縁結びをかって出たのが通だった。
「よーし、俺が有紀の家を見つけてやる。
見つけたら、どうする?」
「そうやなあ・・・毎朝、学校に行く前に走って行って、
有紀に”おはよう”を言う・・・」
「よーし、絶対やぞ・・・どんなに遠くてもやぞ」
「ああ」
「よっしゃ、そこまでやる言うなら、人肌脱ごうやないか」
そんなわけで、健司と通は作戦を立てた。
 
翌日、高校の授業が終わると一番に
健司と通が校門の所に飛び出してきた。
通が言った
「どいつや・・・まだか?」
「うーんと・・・やなあ・・・」
「まだか・・・あれか・・・」
「違う・・・あ、あの子や・・
あの黒い自転車に乗った子や」
「よっしゃ」
通は勢い良く自転車に飛び乗り、
自転車に乗った女の子数人の集団を追いかけて行った。
その集団の中に有紀がいるのだ。
 
通が有紀の尾行を続けている間、
健司は校門の横にある食堂で、
ソワソワしながら待っていた。
顔なじみの食堂のおばちゃんが
ニコニコしながら配膳台の所から
顔を出した
「コロッケ食べる?余ってるの」
「ほんま・・・ありがとう」
「その様子やと彼女待ってるんやな・・
若い子はええな」
そう言いながら、おばちゃんは熱々のコロッケを
健司に渡して、笑いながら奥に消えて行った。
そのまま、待つこと1時間30分後、通が戻ってきた。
「みつけたぞ」
満面の得意そうな笑顔だ。
そのまま食堂を飛び出した通の自転車の後ろに健司が飛び乗り、
通が探し当てたと言う有紀の家に向かった。
たしかに有紀の家だった。表札も確認した。
通は
「どうや、尊敬するか」
と健司の肩を叩いた。健司は
「ああ・・尊敬するぞ」
と肩を叩き返した。
その日の帰り道だった。通は目を真っ赤にして、それでも笑顔で
「俺、転校するんや。
今日のは、俺の置き土産や・・・大事にしてくれ」
と言った。
 
その翌日から、健司は有紀の家まで
往復10キロの道のりを通との約束を守って走り続けた。
どんな雨の日も風の日も雪の日も・・・
 
通が健司の傍に舞い戻って来たのは、あれから5年後、
ちょうど、健司と有紀が離ればなれになった春だった。

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