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もうあかん、と言うのは簡単である。若い体力も精神力もあった頃に挫折を経験していれば、多少の挫折は切り抜けられる。だが、運良くやってきたエリートは挫折には弱いのである。

ハンバーガーショップの裏にある
ゴミ箱をあさっているホームレスの
おじいさん、通称センセイは元有名弁護士だった。
3年前までは事務所を持って活躍していたが、
ひょんなことで弁護士会を除名されてしまった。
つまり、弁護士をクビになったのだ。

あれは5年前だった。
センセイは御年65歳になっていた。
若い頃は、やり手の弁護士で通って
いて、依頼を断りたいくらい仕事が
あったセンセイだが、60を過ぎたことから
法廷でドモったり、肝心なことを
言い忘れたりするようになった。
若い頃なら、勝てた裁判にも負けるように
なってしまった。そうすると、
今までペコペコして
「センセイ、センセイ」
と慕っていた人たちが寄りつかなく
なってしまった。
当時、女性事務員を3人も抱えていた
センセイは給料を支払えなくなって
困ってしまった。そこへ、現れたのが
グラビアアイドルM似の香澄という女の子だ。
「センセイの名前を貸して頂けませんか?」
と言うのだった。
突然のことで返事に困ってしまったセンセイに
香澄は、センセイの耳元で囁いた。
「月200万円の顧問料でいかがです?」
「え、200万円」
「少ないですか?」
「いや・・・」
こんなわけで、センセイは香澄の顧問を
引き受けた。

翌日からセンセイの事務所は
メチャクチャ忙しくなった。
朝から晩まで依頼人が押し寄せた。
彼らはみんなお金に困っている人たちだった。
香澄は彼女の男といっしょに
悪徳金融屋をやっていたのだ。
2年間くらいは、商売繁盛で
喜び勇んでいたセンセイだが、
香澄たちが警察に捕まって万事休す。
センセイは逮捕こそされなかったが、
弁護士会を除名になり
弁護士の仕事ができなくなってしまった。
長年、偉そうに先生商売をやっていた
センセイは、今まで威張り散らして
生きてきた人生のツケを一気に
払わされてしまった。事務所は
勿論閉鎖、女房子供にも見捨てられ
あっと言う間に奈落の底に落ちてしまった。

ゴミ箱をあさっているセンセイだが、
どうも先客がいたようで、食べ物には
ありつけなかった。ガッカリしたセンセイは
ゴミ箱の横にへたり込んでしまった。
「ああ、もうあかん」
そこへ、品の良い母娘が通りかかった。
「おじいさん、大丈夫、これで何か食べて」
と1枚の千円札を手渡された。
涙が出るほどうれしかったセンセイは
「ありがとうございます」
と、その娘を見てハッとした。
彼女は、あの香澄そっくりだったのだ。

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