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手の甲にハート型のあざのある妹を戦災で亡くした彼は、妹を亡くした日に生まれた女性と恋仲になり、その彼女の手の甲にハート型のあざを見つける。 

「初めて東京にB29爆撃機が現れたのは、たしか11月24日でした」
清作さんは話を始めた。
「一番最初の空襲の時は、空襲警報もありませんでした。あったかもしれませんが私には聞こえませんでした」
その日の爆撃で、清作さんの家の近くの工場が爆破された。
100人ほどいた行員のうち、87人が逃げ遅れて亡くなったと記録に残っている。
「そう、87人・・・記録に残ってるのはね。でもね、その工場の空き地で私と遊んでいた3歳の妹が機銃掃射で撃たれて死んだのは記録には残ってませんね。私の目の前で妹は倒れました。私が妹を抱き寄せるとお兄ちゃん、お兄ちゃん・・・と叫ぶんです。でも、その叫び声がだんだん小さくなって
私の首のあたりにムシャぶりついたかと思うと妹は息絶えたんです。力の無くなった妹の手の甲には小さなハート型のあざがありました」
清作さんは、ポロポロ涙を流して語った。
戦争が終わって清作さんは、今の郵便局で働き始めた。
当時は貯金局と呼ばれていたそうだ。
引っ込み思案の清作さんは、30過ぎまで独身だった。
そんな清作さんにも、恋のキューピットがご縁を持ってきてくれた。
同じ局に勤めていた今の奥さんの華子さんだ。
華子さんは10歳ほど清作さんよりも年下だったが、しっかり者で、どちらかと言えば恋人時代からカカア天下で、
「ねえ、あなたのお嫁さんにしてよね」
と華子さんの方からプロポーズ?されたくらいだ。
たしか、仕事帰りの夕方の公園だった。
それでも、なかなかハッキリしない清作さんの手を華子さんはギューと握り、
「ねえ、いいでしょ・・いいと言ってよ」
と華子さんは清作さんの目を見つめた。
ウソだと言われるかもしれないが、二人が互いの手を握ったのは、その時が初めてだった。
そうなって、やっと清作さんは目を覚ましたのか、
「うん」
と言って、華子さんの手をギューっと握り返した。
その日、清作さんは、華子さんの手の甲にハート型の小さなあざがあるのに気づいたそうだ。
相変わらず、元気な華子さんは、清作さんの昔話に入り込んできた。
「そうなのよ・・・もう一つ、面白い話があってね。戦争中だから、正確じゃないかもしれないけれどね。私の誕生日、11月24日なの。初めてB29が東京に現れた日らしいのよ・・・フフフ」
そう言いながら、清作さんの前に湯飲みを置く華子さんの手の甲には、たしかに小さなハート型のあざがあった。
 

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