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その奥さんは3歳か4歳ぐらいの子供を連れていた。子供が「あのおっちゃん、何をしているの?」と聞いたところ、奥さんは「勉強しないと、あんな仕事がすることになるのよ」とヘドロまみれの私を見て小声で言った。2月9日

事務所のあるビルの周りの溝の掃除が私に託された。月に1度の当番がやって来たのだ。

私は汚れてもいいようにボロボロのジーンズに着替え、汗をかくために3時間を費やした。昼間の寒風の中で、1時から4時まで頑張った。

長靴を履いて、ほうきを持って掃いた。深い溝の中の空き缶を取ろうと、ヘドロに降りた。バケツに一つ、二つと空き缶を入れていったがすぐに一杯になった。

「誰が捨てるのかな・・・ひょっとしたら、どこかで自分も同じ事をしている」と思いながら、黙々と作業を続けた。

注意していたと思ったが、体中にヘドロが付いていた。「臭いなあ」と自分自身が思っていたところ、奥さんが通りかかった。

その奥さんは3歳か4歳ぐらいの子供を連れていた。子供が「あのおっちゃん、何をしているの?」と聞いたところ、奥さんは「勉強しないと、あんな仕事がすることになるのよ」とヘドロまみれの私を見て小声で言った。

私はヘトヘトに疲れていたせいか、その言葉にあまり気持ちが動かなかった。世の中、そんなものだろうなと思ったのだ。

その後、腰が曲がったおばあさんが通りかかった。「お兄さん、ありがとう。お疲れさま」と笑顔で言ってくれた。

かなり疲れていても、この言葉は、私の心底で嬉しかった。

近所の銭湯で気分をリフレッシュし、着替え事務所に戻った。事務所のみんなが笑顔で、「お疲れさま」「上から見てましたよ」「来月は私もやります」と迎えてくれた。

汚れ仕事は誰かがやらなければならない。「お疲れさま」の一言が、人をやる気にさせる。
汗をかくって素晴らしい事だ。良い勉強をさせてもらった。

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