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私は、醜い子供だった。

 私は、醜い子供だった。そのため大人に好かれる事はなかった。
 シルバニアファミリー一式を持っている同級生と小学校六年間、毎朝登校していたが、今になって思うと、その子の母親からも嫌われていたと思う。もちろん、醜かったからだ。
 ある朝、私はマスクをして登校した。理由は顔を隠したかったから。玄関まで娘を見送りに来た同級生の母親は、私のマスクに気がついて、こちらを見下ろしたまま「風邪?」と聞いた。黙ったまま首を横に振ると、「そう」とだけ吐き捨てたように言った。目は笑っておらず、蔑んだ目をして、声は果てしなく冷たく感じた。しかし、まだ自己が中心の世界で生きていた幼い私は、風邪かどうか心配されたと思い、内心喜んだ。
 ガーゼで出来た白いマスクはやがて唾液を含んで臭くなった。酸素不足で息苦しかったため、いつの間にか外してしまい、どこかへいった。その日は、嫌で嫌でたまらなかった持久走のテストがなくなったのを覚えている。が、その理由は思い出せない。
 醜かったにもかかわらず、一番仲のいい友達は誰もが認めるほど可愛いらしい女の子だった。大人達はその子を見ると、「ハーフみたい」と口をそろえて言った。肌が白く、茶色がかった長い髪の毛は絹のように光を反射して輝いていた。そして、校内で唯一、ヴァイオリンを習っていた。彼女は、ことある毎に「私達、親友だよ?」と言ってきた。「うん、親友」と私は毎回答えた。だが、私が他のクラスメイトと口を聞いた翌日には、「他の子と話していて傷付いた。私はもう親友じゃないんだね」という旨の長い手紙を毎回渡された。私は「親友」がどういうものなのか、わからなくなった。嫉妬や執着といった感情をぶつけられたのは初めてで、小学校の束の間の期間、それは私の悩みの種となった。なぜ彼女がそんなにも私に執着していたのかわからない。
 ゴルフ焼けした教頭もその子がお気に入りで、休み時間にはやたらとその子にだけちょっかいを出しにきた。私と彼女が、図書館で並んで本を読んでいた時にもどこからともなく教頭はやって来て、突然背後から友達の頭を撫で、驚く彼女を見て楽しそうだった。ちょっかいも出されず、ましてや見向きもされない醜い私は、少しでも二人の輪の中に入ろうと試みてみたが、馴れ合いは二者間で完結していた。そのため、二人の間に分け入るために作った笑顔はそのままに、それまで読んでいた『星の王子さま』へ視線を戻した。場面は、王子さまが一匹の狐に出会ったところだった。

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