それでも馬鹿正直に生きていく
正直者は馬鹿を見る、というが、正直者は馬鹿として見られるのである。
マダオ(まるでダメなおっさん、以下同様)になった奴なんてほとんどが馬鹿正直なアホである。成績優秀でエリート街道を走ってきた奴も少なくない。
……(ここからマダオの居酒屋カウンター席の愚痴になります)
だけどさ、俺らって、できないんだよ。「賢く」生き抜くことができないんだよ。人を悲しませたり裏切ったり陥れたり、そういうことができないんだよ。
そういうのができなくて、例えば金のために人を裏切ったりすることができなくて、自分が積み重ねてきたモノを全て壊したんだ。自分のエリート人生より、世の中の平和を選んだんだ。
その結果、精神を病み、空白期間ができて孤独死確定の万年フリーターになってしまっただけ。でもいいんだ。命が取られるわけじゃない。体が動く限り、最低限食っていけるし、ネットで愚痴も書ける。人を傷つけてまで這い上がりたくないんだ。
まともな職に就こうとしたらすぐに経歴だ職歴だ言ってきやがる。能力主義って言いながら経歴主義になってるじゃねえか。学歴主義より残酷じゃねえか。経歴がないから経歴が積めない。
世の中は残酷で、全員が勝つなんてできることじゃない。弱肉強食、騙し騙され、いかに相手を出し抜くか。常日頃から囚人のジレンマの脳内シミュレーションを行い、初対面から戦闘態勢。相手を信用させいつ裏切るかを考える。これが今の世の中。……なんだこいつら。デスノートでも拾ったのか?
いやもうマダオは疲れたよ。
大学までは頑張れたよ? でも学校社会を出たらとてつもなく残酷な現実を思い知らされて、スタートラインにものすごく差があったことがようやくわかる。
三十も過ぎてみれば、結局は生まれだと気が付く。議員の子は議員(秘書)になり、医者の子は医者になり、公務員の子は職業選択の自由があり、農家の子はスローライフを満喫する現代貴族。都会に生まれていればチャンスも広がるからこの限りではない。田舎ではチャンスがなさすぎる。
田舎の冴えないサラリーマンの子のみが、激戦の就活椅子取りゲームをしている。天下りや機械化IT化で座る椅子なんてほとんど残っていないし、座れたとしても10年持つかどうかわからない。
勝ったやつらも努力云々ではなく、ガチャに当たったようなものだ。
もちろん若い頃は戦ったし、残虐非道なサラリーマンになろうと努力したよ。今だって、若い頃ほどでもないけど、少しは戦っているんだ。心を現代に合わせて改悪しようとしているんだ。でもさ、心が追いつかないんだ。やっぱりできないんだ。
田舎に帰って細々と生きようとしたよ。履歴書も何枚も出したよ。ギリギリ本当のことを書いたよ。でもさ、何もうまくいかないんだ。気まぐれで農家やりたいなんて言っても、「農家舐めるな」って感じだし、農地は都会からの移住組(引退老人含む)が優先だし、就職は二十代が優先だ。
な、もういいだろ? 疲れたんだ。
同世代の奴らが家を建てているのはまだよかったよ。でも最近は年下が家を建ててるんだよね。祖父母の家を取り壊して家を建てる。俺より若い夫婦が笑顔で下見をするのをランニング中に見かけると、死にたくなる。
2〜4歳くらいの子供を連れて歩いている20台前半の若夫婦。田舎に子供は驚くほど多い。パパは背も高くガタイもいい、毎日トレーニングしてますって感じ。ママは小さくて可愛らしい。いかにも理想の家庭。
え。みんな貧困で、お互い助け合って生きていこうって言ったよね? マラソン大会、最後まで一緒に走ろうって言ったよね? 一人だけ抜け駆けしないって言ったよね?
いや、そういえば誰もそんなことは言っていない。俺が勝手に勘違いをしていただけだ。
高く積まれた公共経済学(格差解消中心)の本の山を殴り倒した。派手に崩れる本。そしてそっと拾い直した。拾うとき少し涙が出た。
田舎で一番幸せな若者は、高卒。工業や商業を出てそのまま終身雇用。最近は優良企業にも就職できる。実家に畑があるとさらに良い。最初は畑を耕して、配偶者ができたらそこに家を建てる。コスパ最強。
都会の若者は、高卒大卒関係なく、幸せになりやすい。誘惑にさえ気をつければ、何でもできる。チャンスの数も質もまったく違う。誕生地ガチャ成功ってか。
にしても、こんな時代でも若者はキラキラと輝いている。いやいくらなんでも輝きすぎだ。キラキラ通り越してギラギラになってしまっている。てめーらはクリスマス時期のLEDか。
高卒で入れる企業なんて10年後に潰れる。そう思っていた時期もありました。まさか補助金で生き残るとは思いもしなかった。はあ(ため息)。
にしても戦後、ただで土地をもらった小作農の子孫ほどラッキーな存在はない。歴史の真の勝者は奴らだ。日本は不思議だ。敗戦国なのに勝者がいる。
アホらしいにもほどがある。マルクスもびっくり顔である。エンゲルスは泣いている。ケインズは心を痛めて酒を飲む。
一方、田舎の進学校(都会から見たら三流の公立高校)から塾にもいかずに国立大学受験を突破した俺らだが、一度でも失敗したら地獄行き。
それまで勉強しかしてないから大学では人の輪に入れず、どころか悪友から騙され人間不信になり、社会性が育たないまま大学でもずっと学部の勉強し、そのまま就職した先はブラック企業。はい、見事に失敗。精神病んで田舎へターン。引きこもり生活の始まり。
都会に残っていればまだ希望はあったかもしれないが、当時はその判断ができなかった。どうしようもないアホである。
再就職面接では経歴職歴ばかりきかれて、アスぺだなんだと貶されて、転職エージェントから雑に扱われ、運が悪いと履歴書が企業に届くことすらない。
※転職エージェント内部の審査に合格しなければ、履歴書は企業まで届くことはない。審査には二週間もかかる場合もある。
俺だって「それでは自分も小賢しく生きよう」としてみた。
しかしやはりできない。この歳になって小賢しい生き方に変えるなんて無理だ。人格を変えるようなものだ。無理だ。
結局、馬鹿正直な生き方しかできない。
どうしようもないほどにアホである。理屈では分かっているのだ。そんな馬鹿正直に生きても、意味がないと。しかし、やめることができない。
それはもう、魂に刻まれているとしか言いようがない。大和魂か。くそったれ、もっとその魂の持ち主を幸せにしてみやがれ。
※色々言っているが、結局こうい僕みたいなはぐれ者を発達障害グレーゾーンというらしい。人格障害とも言うかもしれない。詳しくはない。だから馬鹿正直な人間が全て不運になると言っているわけではない。馬鹿正直な発達障害が不運になるのだ。
ただ、僕などが一生懸命にやって、世の中のおっさんの評価が少し上がれば、と思うが、評価が上がったとき、俺はもうおっさんではなくおじいさんになっているのだろう。そして今の若者がおっさんになったとき、世の中のおっさんの評価は上がり、(特に何もしていないのに)幸せなおっさんが世の中に溢れているというパターンだ。
「結果は後からついてくる」とよくいうが、違う。「結果は後の人についてくる」のだ。
それがわかっていても、俺はこの馬鹿正直な生き方をやめることはないだろう。馬鹿正直のままアホみたいに死のう。
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