好きなものに同意を求めてくる奴が苦手です、という話。
自分の「好き」を伝える時、押しつけがましくなっていないかいつも心配になる。特に、直接人と会って話している時に。
友人のAはとあるアニメが好きで、もう5年以上追いかけている。特に作品中のあるキャラクターがとにかく好きで、その情熱には私も一生敵わないと思っている。新作が発表されれば何度でも繰り返し見ては感動号泣し、欲しいグッズは正攻法で必死に手に入れる。そうしていると、SNSで共通の友人も増えていったみたいで、Aはほぼ毎日誰かしらとの予定を入れてオタ活を楽しんでいた。
そんなAに夕飯に誘われて行ってみると、Aはここ最近の悩みを打ち明け始めた。「なんか疲れちゃって」と彼女は溜め息をついた。
作品の中で、単体で好きなキャラクターがいる(推しキャラがいる)タイプには様々な種類がいる。例えば自分とキャラクターの空想を楽しむ夢女子とか、ほかのキャラクターと付き合っているような空想を楽しむ腐女子とか。
Aはその類ではなくて、ただファンとしてキャラクターが好き、というタイプだった。加えて言えば、このキャラクターは周りの様々な支えがあったからこそ今の成長ができたのだと感じており、例え作品中で敵対視されたようなキャラクターでも嫌わない。転じて作品の全てが好きなタイプだった。
SNSを通して、様々な人種に会ったそうだ。
前述した夢女子・腐女子の方だとか、同担拒否の方(自分以外の人はこのキャラクターを愛さないで欲しい、というタイプ)とか。あとはSNSで仲の良いグループができ始めると、作品よりグループ内で遊ぶことのほうが楽しくなってしまうタイプとか。どちらかというと作品というより声優が好き、というタイプもいる。
Aはそれを受け止められる。好きの方向なんて人それぞれだし、「それはおかしくない?」なんてことは言わない。ニコニコして聞いている。
だからといって受け入れているわけではないのだ。
いくら腐女子の子に「ねえあれ絶対付き合ってるよね、やばいよね」と言われても、特定のキャラしか好きじゃない子に「あのキャラが出てくるようになってから変なファンが増えてさ、最悪だと思わない?」と言われても、Aの気持ちは全く変わらない。かといって彼女達に棘を指すわけにもいかないから笑って流すそうだが、決して同調はしない。
なのに、執拗に同意を求めようとする人が多い。らしい。
自分の好きなものへの情熱だったり、愛だったり、意見だったり、それは大いに結構だと思う。勿論、好きだからこそその魅力を知ってもらいたくて人に熱く語ることは悪い事ではない。でも、「そうだよね?」なんて同意を求めてくるのはなんだか違うような気もする。「私のこの考え、なにも間違ってないよね?」といったような、圧にさえ感じられる。
「でしょ?」や「そうだよね?」を最後に付け加える人って、作品の良さを認めて欲しいんじゃなくて、その作品が好きな“私”を認めて欲しいだけなんじゃないかと思ってしまう。そんなの独りよがりだ。
でも、そう言いたくなる気持ちは分からなくもなかったりする。
今こそ薄れたが、アニメオタクは気持ち悪いといったような風潮はなかったわけではない。学生の頃なんかは、アニメ好きが周囲にばれると途端に「オタクかよ、キモ」と笑われていた。
どんなに好きであっても、周囲に変な目で見られていないか気になる。おおっぴろげにはできない。誰もが理解してくれるわけではないから。でも愛はある。認めて欲しい。私の考えを肯定して欲しい。同じ気持ちの人が欲しい。こんな私は一人ではないのだと実感したい。
・・・まあ、これは私の想像のひとつでしかないのだけど。
作品は勿論好きだけど、どうしても主観的というか、自分のことしか考えられなくなっちゃうような迷走は割と誰でもなってしまうものだと思っている。アニメに限らず。
とはいえ周りにとっていい事でないのは確かだ。
Aは結局、SNSでできた仲のいい(私はここも疑わしいのだが)グループと一度距離を置くことにしたそうだ。Aの良かったところはこの状況に飲まれる中で「でもいつもよくしてくれるグループだし・・・」といった変な言い訳で自己犠牲の世界に落ちなかったところだ。彼女は客観的に考えられる人だった。
「界隈疲れ」という単語をたまに耳にする。
作品は好きなのだが、同じ作品が好きなグループの中にいることに疲れて距離を置いてしまうこと。酷い場合、それがきっかけで作品そのものでさえ嫌いになる人もいる。
疲れたら離れたっていいのだ。あなたが好きなのはグループじゃなくて作品だ。グループに固執する暇があるのなら、作品に固執しなさい。グループに所属していなくても、あなたの愛はなくならないのだから。
一人ひとりに声を掛けたくなるのだが、そういう人は大抵心優しくて、謙遜しすぎなんじゃないかってくらいマナーができていて、散々思いつめたあとでない限り心情を発信することは殆どないものだから、上手く見つけられないというのが現状だ。
願わくばそんな人に、これを読んでもらえると嬉しい。
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