【厳選三冊】日記が書きたくなる本
日々の出来事を忘れないため、思い出を残しておくために、日記をかいている人も多いはず。
そんな日記だが、じつは独特なジャンルとして、日本文学の歴史を彩ってきた。
『土佐日記』をはじめ、「紫式部日記」「更級日記」は聞いたことがあるはず。
そんな独自な創造的世界として発達を遂げてきた日記文学。
文学史に歴史をきざむ志はなくても、日記はだれでも書き始めることができる手軽さが魅力だ。
今回は、日記を書き始めたくなる本を三冊厳選して紹介したい。
『富士日記』
作家である夫・武田泰淳と、一人娘・花子との、富士山麓での別荘生活を描いた日記。
とにかく文章のテンポがよく、ノスタルジックな昭和の雰囲気を味わうことができる。
主なトピックは、四季の移り変わりや三食の献立、買ったモノとその値段。
そして、別荘地の管理員さんやガソリンスタンドの夫婦、そして近所の作家夫婦との交流が描かれている。
なんの変哲もない日常だが、この著者の手にかかればページをめくる手が止まらなくなるから不思議だ。
例えば以下。
台所の引出しに「オレンジジュースの素」があった。お湯で薄めて飲んだら気持ちわるくなった。三年位前のお中元のだから腐っていたのかしら。中巻、p406
「そんなバカな!」と思わずふきだしてしまった。
「オレンジジュースの素」も気になるが、他人の生活は、それだけでエンターテイメントだと教えてくれた。
収録されている期間もすごい。なんと13年間。
日記文学好きならば「必読」と呼ばれるだけのことはある。
『スットコランド日記』
脱力系旅行記の名手・宮田珠己さんの日常エッセイ。
買ってから読み始めるまで、「スコットランド」への旅行記だとおもっていたら、「スットコランド」だった。
タイトルからしてすっとぼけているのだが、文章の文体とリズムがほどよく脱力しており心地よい。
派手な事件は起きないが、かえって淡々とすぎていく日常に安心感さえ覚える。
特に役立つような情報は書いていないが、つい読み返してしまう。
著者が素直に自分を客観視しているさまは爽快であり、ぜひとも見習いたい。
『獄中記』
作家である佐藤優さんの獄中記。
微罪容疑によって逮捕された著者が、512日のあいだ勾留されたときの記録だ。
上に紹介した二冊は気兼ねなくよめるが、この本は勉強意欲をあげ、尻をたたいてくれる本。
というのも、獄中でも学びをやめず、哲学的・神学的な問いをとおして、知の巨人がどのように思索を紡いでいたのかが追体験できるだからだ。
そして本書は、知の巨人の知的生産法を学びたい思う読者にも、十分楽しめる本になっている。
著者の読書法を簡単に説明すると、1冊の本を少なくとも3回読み、1回目はノートやメモを取らず、たまに鉛筆で軽くチェックだけして読む。
2回目は抜粋をつくり、内容を再構成した読書ノートを作成。
3回目は理解が不十分な箇所や、あいまいな箇所についてチェックする、というもの。
心が折れそうなものだが、知の巨人の以下の言葉を紹介したい。
思索をする場として、独房というのはたいへんによい環境です。一種独特の緊張が知的営為に対して明らかに肯定的影響を与えます。p151
獄中でとったノートの数もおそろしく、なんと62冊。おそるべし。
日記を書く工夫
最後に、簡単にだが、日記を習慣にする方法をまとめてみたい。
まずは「何に書くか」を決めることだ。
以前はノートに書いていたのだが、どんどんたまっていくと部屋を圧迫するのと、けっきょく見返さないので、デジタルで日記を書くことにした。
エンジニアらしく(?)GitHub上で書いており、草を生やすにも貢献してくれている。
次に重要なのが、一日のうちに「いつ書くのか」を決めること。
ぼくは夕食後に設定している。
「~したら日記を書く」と決め、条件反射的に書けるようになるまで続けるのがポイントだ。
日記を書き続けることによって、「脳のトレーニング」、「イベントや起きたことの記録」、そして「感情浄化作用」といったメリットも得ることができる。