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「PLUTO」に酔いしれ、AIの発展に思いをはせる

2023年10月26日、NETFLIXで配信が開始されたアニメ「PLUTO」。

人間味あふれる美しいSF作品に仕上がっており、一言でいうと「最高」だった。

手塚治虫「鉄腕アトム」の人気のエピソードである「地上最大のロボット」を、浦沢直樹氏がリメイクした漫画が「PLUTO」だ。

もともとは2003年から2009年まで『ビッグコミックオリジナル』で連載され、大きな話題を呼んだ。

しかし信じられるだろうか。

アトムが主人公ではなく(前半はロボット刑事ゲジヒトが主人公)、アトムの戦闘シーンはたったの2回だけ。

それなのに「最高」と呼べるのは、もはや奇跡といえる。

システムに人間が管理される世界を描いた傑作が「PSYCHO-PASS サイコパス」だとすると、AIと人間の堺がなくなる臨界点を描いた傑作が今作の「PLUTO」だ。

どちらも描いているものは違うものの、「人間のあり方」を強烈に問いかけてくる。

「AI」というテーマははすでに手垢のついたものだが、登場人物たちの丁寧な作り込みと彼らへの共感があらたな命を吹き込んでいる。

ストーリー

ストーリーは、世界最高水準の7体のロボットが、何者かに次々と破壊される事件を中心に展開していく。

主人公のゲジヒトと、アトムもこの7体のロボットに含まれている。

一方で、ロボット法に関わる要人が次々と殺される事件が発生。

現場には人間の痕跡は残されておらず、犯人はロボットが疑われるが、そもそもロボットは人間を傷つけることは出来ないはずだ...

丁寧な人物描写

ストーリーは刑事もののスリラーとして進行するが、同時にロボットたちのトラウマ、夢、憧れがより人間らしく、丁寧に描かれている。

ゆえに長い尺(60分程度のエピソードが全8話)だが、最後まで一気に見ることができる。

各ロボットは様々な生き方を見せてくれる存在で、彼らが次々に壊されていく様子は切なすぎて泣けてくる。

そんなときに希望になるのがアトム。

アトムが初登場したときの高揚感はたまらない。

こどもの頃よく見ていたアトムは、もはやDNAレベルに刻まれている永遠のヒーローだ。

そんなアトムは、見た目だけではロボットには見えず、周りの人間やロボットには人間のように見えている。

世界最高水準のロボットの一体であるゲジヒトでさえ、彼のことをロボットか人間かと正しく認識できない。

アトムの感情表現

アトムは人間を模倣し、その模倣の中で人間らしさを掴んだロボットだ。

たとえば、おいしそうにスープを飲むマネをすると、本当においしいという感情が分かった気持ちになると語る。

「おいしく感じる」から「笑顔」になるのではなく、「笑顔でおいしそうに食べてみる」から「おいしいと感じる」。

これはなにも特別なことではなく、人間でも悲しいときに無理にでも笑顔をつくったり、上を向いて散歩したりすると、気分が晴れたりする。

このように感情やじつは、形や動作からも生まれるものだと教えてくれる。

感情があるからそれに対応した動作をするというだけではなく、ある動作をすることで感情が芽生えてくるという面もあるということ。

このような細かい感情表現が描かれたAIアニメがいままであっただろうか。

ぼくの記憶をたどる限り存在しない。

(実写ドラマ「新スタートレック」のデータ少佐が思いつく程度だ)

AIが人間に近づくと...

個人的には一番興味をもったのは「ブラウ1589」と呼ばれるロボット。

彼は、世界ではじめて「人間を殺したロボット」だ。

彼の人工頭脳は何度調べても「正常」であり、「正常」なはずなのに、人間を殺してはいけないというルールが適用しない。

欠陥がないのに人間を殺してしまう。

じつは彼の人口知能は「世界最先端」であり、より人間に近づいた存在といえる。

作中においてロボットは人間の生活に必要な存在だが、一歩間違えば「大量殺人」を簡単に起こせる「ブラウ1589」のようなロボットの出現をおそれている。

ゆえに人類は、「ブラウ1589」を壊すこともなく幽閉しつづけている。

おなじく世界最先端の人工知能を持っており、「ブラウ1589」と対比で描かれるアトム。

アトムも人間に近づいているが、「ブラウ1589」のように人を殺めるのではなく、他のロボットにはできない「ウソ」をつくということができる。

それも「優しいウソ」をつくというところに、人間の良心を垣間見ることができる。

おわりに

今作はAIのメタファーと反戦感情が見事に融合した最高のシリーズといえる。

殺人ミステリーに包まれた魅惑的なストーリー展開に酔いしれ、原作も読みたくなるほど。

鉄腕アトムのファンであろうとなかろうと、「PLUTO」はSFファン必見の作品だ。

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