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【書評】嫌老の正体を暴く『上級国民/下級国民』


今世界的に何が起こっているのか?

そんな俯瞰的な視点を、分かりやすく、数多くのエビデンスを元に与えてくれる稀有な著者が橘玲氏だ。

そんな橘氏が、『上級国民/下級国民』にて世界レベルで進行する「分断の正体」を明かす。

ネットでよく使われる「上級国民」という言葉は「不当な優遇」という意味を含んでいるが、本書では「中間層の上下への分裂」を描く。

先進国で発生している「社会的格差の広がり」「ナショナリズムの台頭」「排外主義の高まり」といった現象が、「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」の反動である分析している。

トーマス・フリードマンは『遅刻してありがとう』にて、先進国の若者が感じている「閉塞感」の原因は、「テクノロジー」「グローバリゼーション」「気候変動」であるという。

「テクノロジー」を「知識社会化」と見なせば、橘氏と3つのうち2つが一致している。

学生や社会人で、なんとなく「生きづらさ」を感じている人や、現代はどういう時代なのかという概観を掴み、これからの生き方の糧にしたい人におすすめの本だ。

バブル崩壊後の平成の労働市場が生みだした数多くの「下級国民」たち。

彼らを待ち受けていたのは、共同体からも恋愛市場からも排除されるという「残酷な運命」だ。

一方、それらを独占するのは少数の「上級国民」たち。

こういった「下級」と「上級」の分断は、なにも日本ばかりではなく、アメリカのトランプ大統領就任、イギリスのEU離脱、フランスの黄色ベストデモなど、欧米社会を揺るがす出来事はすべて「下級国民」による「上級国民」への抗議活動といえる。

本の前半では、「団塊の世代」という既得権益者を優遇し、格差を拡大させた日本の失敗について語っている。

そもそも団塊の世代とは、1947年から1949年に生まれた世代をいい、2022年の現在の年齢は73歳〜75歳だ。

この世代は第2次大戦後のベビーブーム時代に生まれ、 人口は約689万人と多く、2025年に団塊の世代が「後期高齢者(75歳以上)」に加わると、日本国民の4人に1人が75歳以上となる。

前半部分を要約すると、平成の日本の労働市場において若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで、中高年(団塊の世代)の雇用が守られたというのが結論で、「嫌老」の正体がよくわかる。

「団塊の世代」に虐げられてきた「氷河期世代」、そして、巨額な社会保障負担を強いられる「若者世代」の内心を反映しているといえる。

ベーシックインカムについても述べており、興味深く読んだ。

一国の中であれば実現できるが、グローバル貧困層との関係性の中では破綻すると著者は警告する。

たとえば日本でベーシックインカムが導入された場合を考えてみる。

貧しい国の若い女性は日本人男性と結婚しようとする。

すると、仕事などせずに海外の貧しい女性に日本人の子どもを産んでもらい、楽に暮らそうと考える日本人の男が大量に出て、ベーシックインカムが破綻するとのこと。

本書は2019年4月に行われた「リベラル化する世界の分断」という講演がもとになっている。

「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」という巨大な潮流のなか、世界が総じて豊かになるのと引き換えに、僅かな能力差・知識差が大きな差となり、先進国の大部分は「上級国民」と「下級国民」へと分断されていく。

そんな世界を描く本書は、多くのデータやファクトを元に論じ、世界的知見をうまく引用し、分かりやすくまとめてあり、一般書としての説得力がある。

そして、世界の知識社会・非知識社会の動向について深く考えさせてくれる内容だ。

年金に関しては、年金保険料引き上げ・給付削減、医療・介護保険給付引き下げ、消費税増税といった、ひたすら対症療法を繰り返すしかないという若手の官僚の言葉が紹介され、早く日本以外の生活拠点を持たなければと、ヨーロッパ移住の決意を新たにさせてくれた。

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