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レビュー『これからの時代を生き抜くための 文化人類学入門』

ぼくたちの社会の「あたりまえ」を考え直す文化人類学の入門書。

文化人類学が発見した「先住民社会における常識」が、現代社会が抱える問題について有用なヒントを示唆してくれる。

「文化人類学」という言葉になじみがなくても、他文化理解に興味がある人や、常識を疑う力を得たい人におすすめだ。

文化人類学とは

地球規模の時間で人類を考えるという文化人類学は、どのように誕生したのかを学ぶことができる。

文化人類学はフィールドワークをもとに、多民族の生活を観察する手法をとおして、人々と共に学ぶ学問だ。

「今はこうしているが、そうではない考え方ややり方もあるのではないか?」という思いを常に胸の内に秘めている必要がある。

そんな文化人類学は、規制のやり方や考え方を疑ってみる姿勢を内在化させた学問だと著者はいう。

経済と共同体

一番興味深く読んだのは、第3章の「経済と共同体」。

著者の主なフィールド地であるボルネオ島の狩猟採集民・プナンの人々が取り上げられており、贈与と交換から人間の生き方を考えさせられる。

プナンの人々は徹底したシェアリングの精神を文化的に共有していることに驚かされる。

そこでは、分け与える人が最も尊敬を集めて指導者に選ばれているのだ。

そしてプナンには「ありがとう」という言葉や、心の病も存在しない。

現代の先進国では能力主義と競争原理が際立っているが、それらはプナンの人々が意識して忌避してきたことでもある。

そしてこのような先住民社会では、ぼくたちの世界が、自然や動物といった人間以外の存在と絡み合って成り立っているという当たり前が、当然の事実として受け入れられてきた。

「人新世」という時代についての危機がうたわれる現代、先住民社会の文化は、人間と自然の関係を問いなおす機会を与えてくれる。

著者

著者は人類学者・奥野克巳さんで、ボルネオ島の狩猟採集民「プナン」と行動をともにしてきた人物。

そんな著者が、「性」「経済と共同体」「宗教」「環境問題」という各ジャンルごとの切り口から、文化人類学がどのような学問かを紹介する入門書が本書だ。

各章は現代的な問題とリンクしており、文化人類学のもたらす知見の可能性を示唆している。

シェアリング、多様性、ジェンダー、LGBTQ、マルチスピーシーズといったキーワードを文化人類学の視点で取り上げ、「人新世」と呼ばれる現代を生き抜くためのヒントを、文化人類を通して学べる一冊。


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