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8指と腕鬼が共存するキャッチーさが見事な 『7 Wishes』 NIGHT RANGER

ナイト・レンジャーは1st、2ndで語られることがほとんどだと思いますし、この2枚が強烈であることに全く異論はございません。

ただ、私が洋楽を聴き始めた頃、フィル・コリンズやワム!、Mr. ミスターなどに混じってチャートインしていたのが『7 Wishes』(1985年)からのシングルで、ハードロックだと意識することなく聴いていました。ボン・ジョヴィの『Slippery When Wet』が1986年ですから、いま考えるとなかなかにすごいことだったと思います。

本作からは ⑶ Four In The Morning 、⑸ Sentimental Street 、⑽ Goodbye がシングル・カットされていて、全てTOP20にランクインしています。

当時は知りませんでしたが、前作にあたる『Midnight Madness』から「Sister Christian」がヒットした影響で、バラード調ともいえるこれらの曲が本作でもシングルに選ばれていたんだと思います。この状況はバンドにとって本意ではなかったのかもしれませんが、しっかりとヒットしていたのはさすがでした。

シングル曲に限らず、多くの曲はベースのジャック・ブレイズ(Jack Blades)によるもので、ドラムのケリー・ケイギー(Kelly Keagy)とヴォーカルを分け合っています。ジャックの元気なヴォーカルはもちろん大好きですが、ケリーって本当にいい声してる…。ドラムを叩きながらこの声で歌うという偉業は、HR/HM界でもっと讃えられていいと思います。

ジャックはナイト・レンジャー以外にもダム・ヤンキースや各方面への楽曲提供など、その作曲能力はとどまることがないようで、その才能にはひたすら感謝です。それでいて歌えるベーシストなんですから、世の中には羨ましい人がいるものです。

しかしながら、このバンドがすごいのはこのようなキャッチーな曲をチャートに送り込みながらも、8フィンガー奏法のジェフ・ワトソン(Jeff Watson)と、アーム奏法のブラッド・ギルス(Brad Gillis)という2人のギタリストが共存していたところにあると思います。

「いやいや、この2人について取り上げるならむしろこのアルバム以外だろう」というご指摘もあろうかと思います。

「Don't Tell You Love Me」や「(You Can Still) Rock In America」を聴かずして2人を語ることはできないと思いますし、『Big Life』収録「Color Of Your Smile」でのツイン・リードは何度聴いてもシビれますが、私にとって洋楽の原体験のような『7 Wishes』はとてもインパクトが大きく、曲に合った歌えるようなギター・ソロの数々は、むしろ他作よりも素晴らしいと思うのです。

8フィンガーが代名詞のジェフではありますが、本作でそれが聴けるのは ⑴ Seven Wishes のソロ冒頭がそれらしいくらいだと思います。ただ、私が好きなのはジェフのアコースティック・ギターでして、⑽ Goodbye なんかは弾いてみようとすると激ムズです。なんであんなに安定して弾けるのかな?(←それはもちろんプロだから)。彼のソロ・アルバム『Lone Ranger』でのアコースティック・インストも美しいものばかりです。

ブラッドのアーミングも随所にメロディを活かす形で使われていて、曲に溶け込んでいるものばかりです。本作で曲と共に私の頭に残っているソロの多くはブラッドによるものです。ランディ・ローズが亡くなった後、オジーとツアーに出たギタリストなのですからそれも当然なのかもしれません。

「ここの8フィンガーがすごい!」、「ここのクリケット奏法がエグい!」みたいなところは少ないかもしれませんが、本作での2人のプレイが大好きです。メロディアスでキャッチーな曲が多い中でも2人のギターが程よく鳴っているところがとても気に入っています。

そして、こんなギタリストが2人もいるのにキーボードも効果的というこのバランスは、一体どうやって実現していたのでしょう?

1stからプロデューサーを務めるPat Glasserの手腕もあるのでしょうか?アラン・フィッツジェラルド(Alan Fitzgerald)の音は、⑹ This Boy Needs To Rock のようなギター・ロックでもちゃんと聴こえるのがすごいところだと思います。

モントローズではベーシストだったこともあるそうですし、曲のクレジットもジャックとケリーに次いで多いんじゃないかと思いますので、きっと多才な人なのでしょう。

さらに、このバンドにはコーラスという武器もありました。ヴォーカルが2人いるのですから当たり前かもしれませんが、美しいハーモニーをも持ち合わせていたバンドだったと思います。

ナイト・レンジャーにはベスト盤もありまして、「これがあれば十分」という方もいらっしゃると思いますし、ここに収録されている本作からの曲は当然ながらヒットしたシングルになるので、バラード(あるいはヒット狙い)のアルバムというイメージにつながっているかもしれませんが、ハードロックもちゃんとあります。

2人の凄腕ギタリストが共存しているだけでもすごいのに、良い曲を個性のある5人が素晴らしいバランスで成立させていることに驚かされる傑作だと思います。

ナイト・レンジャーは2021年にも『ATBPO』をリリースしており、健在なのは嬉しい限りですが、そこにジェフとアランがいないのはやっぱり少し残念です。


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