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テクニックはもちろん、音楽そのものが素晴らしい 『Passion and Warfare』 STEVE VAI

既にデイヴィッド・リー・ロス・バンド でそのプレイの凄まじさは知れ渡っていたスティーヴ・ヴァイが、ホワイトスネイクの「Slip Of The Tongue」(1989年)で急遽ギターを入れた後、奇盤「Flex-Able」以来のソロアルバムとして1990年にリリースしたのが「Passion And Warfare」です。

1990年はHM/HR的に豊作と言えまして、ラットの『Detonator』、イングヴェイの『Eclipse』、ポイズンの『Flesh & Blood』、クィーンズライクの『Empire』、テスラの『Five Man Acoustical Jam』、ダム・ヤンキースの『Damn Yankees』、ウィンガーの『In The Heart Of The Young』、ジューダス・プリーストの『Painkiller』、アンスラックスの『Persistence Of Time』、エクストリームの『Pornograffitti』、AC/DCの『The Razor’s Edge』、スレイヤーの『Seasons In The Abyss』、メガデスの『Rust In Peace』、テスタメントの『Souls Of Black』、リヴァードッグスの『Riverdogs』、スティールハートの『Steelheart』、リンチ・モブの『Wicked Sensation』、(ちょっと毛色が違うけど)ゲイリー・ムーアの『Still Got The Blues』などがリリースされています。いやー、夢のような1年ですね。高三の時、忙しかったんだなー。

これだけ多くの好盤が出ていますが、その中で最も聴いたのが『Passion And Warefare』でした。

スティーヴ・ヴァイと言えばもちろん、その驚異的なテクニックや独自のトーン、7弦ギターやトリプルネックなどが有名だと思いますが、本作は何といっても収録されている曲、音楽そのものが素晴らしいです。

独特の音世界を構成する変態的な旋律を実現するためにそのテクニックやトーンが存在しているという感じで、音数はそれなりに多いのですがそれが気にならないのです。

また、いわゆるソロ・パート的なところだけではなくリズム・パートがどこまでも素晴らしい。7弦ギターがどのくらい寄与しているのかわかりませんが、キレ具合が気持ち良すぎる。

壮大なギター・オーケストレーションとなる ⑴ Liberty はまさしく序曲といった感じで、これから始まる世界への期待感でいっぱいになります。

キレキレのリフから始まる ⑵ Erotic Nightmares や ⑻ Audience Is Listeningといったハードロッキンかつ、その世界を感じ取れる曲には熱狂しましたし、⑷ Answers や ⑼ I Would Love To は「ドライブできるようになったら必ずやこれを聴く」と誓った曲でした。

特に ⑷ のギタープレイはもちろん、リズム的にも面白さのある曲で夢中になりました。これにはクリス・フレイザー(ドラム)の力も大きいでしょう。⑽ Blue Powder ではスチュワート・ハム(ベース)の見せ場も作られています。

それでもハイライトはやっぱり ⑺ For The Love Of God になると思います。ヴァイがエモーショナルかどうかは議論のあるところかもしれませんが、少なくともこの曲における鬼気迫るプレイには心を揺さぶられます。とてつもないギタリストです。

最初から最後まで、それほど長い曲もなくテンポよく進んでいくのも良いところです。時折、奇妙に響くヴァイ節も慣れてくれば必要なアクセントになり、ギター・インストではありますが全く飽きることなく、聴くほどにハマる不思議なアルバムでした。

だからといってまさか全米18位にまでなるとは思っていませんでしたし、この手の音楽としては相当珍しいことだったと記憶しています。

アルバムジャケットでもその世界観がとてもよく表現されている本作で、ヴァイは完全にギタリストとしての地位を確立した感じがあって、それからはバンドに所属することなく活動を続けています。(デヴィン・タウンゼントを迎えた『Sex & Religion』にはバンド感がありますが、「VAI」名義でリリースされています。これも30周年なんすね、はやいなー)

最近では「Knappsack」が話題になり、「右肩を手術したからって左手だけで曲を作るってクレイジーすぎるだろう」と思いますが、そのプレイには驚くばかりです。まだまだ元気そうなヴァイにはこれからもギターの可能性を拡げる音楽を期待します。


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