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変化はありつつそれでもカッコよかった 『Reach For The Sky』 RATT

これは被害妄想なのかもしれませんが、グラム・メタルへの蔑視(ヘア・メタルとか呼んだりしますよね)はなかなかに厳しいものがあると思います。確かに社会的メッセージを含んだ音楽とは言いにくいですし、外見や立ち振る舞いは褒められたものではありません。

それでも、ラットやモトリー・クルー、ドッケンなどは私のような年代の人間にとってLAメタルを象徴するとてつもなくカッコいいバンドでしたし、本当によく聴きましたので、入れ込んだ音楽が軽んじられているのを見ると悲しくなります。

そんな時代のバンドの中でも特に好きだったのが、2人のギタリストがいたラット(RATT)で、聴くようになってから初めて迎えた新作『Reach For The Sky』(1988年)は、もし世間の評価が今ひとつだったとしても私は大好きな1枚です。

1988年にリリースされた本作は、『Dancing Undercover』からその役割が大きくなり始めたウォーレン・デ・マルティーニ(ギター)の嗜好がより反映されたアルバムと言えそうです。

なんとなく漂い始めたブルース回帰の雰囲気の中で、いち早くその要素をウォーレンらしい感覚で取り入れた ⑶ Way Cool Jr が話題になっていたと記憶しています。実際、それまでの典型的なRatt & Rollとは違った曲になっていましたが、私は「このくらいのブルージーさなら歓迎」と思っていました。

もともとタッピングをしないウォーレンのプレイが好きでしたし、新感覚と言われながらもペンタトニックがベースにあったウォーレンがブルースの要素を取り込んだのは、いま思えば自然な流れだったのでしょう。

ただ、この変化はそれまでのファンからすると「聴きたいのはこれじゃない」となってしまったかもしれません。

それまでのほとんどの曲にクレジットされているもう1人のギタリスト、ロビン・クロスビーの名前は本作でも6曲にあり、決して少ない訳ではないのですが、はっきりとそれらしいのが ⑵ I Want A Woman や ⑷ Don't Bite The Hand That Feeds くらいだったこともあって、評判は微妙だったと記憶しています。

それでも、当時の私はリアルタイムで迎えた初めての新作だったこともあり、「この変化はバンドの進化」などと偉そうに捉えていました。前作よりも好みの音になったことも加わって、録音した緑色のAR-X(カセットテープです)で繰り返し聴いたものでした。

⑴ City To City はオープニング曲としてピッタリで、フォアンのベースってうまいんだなと改めて気付かされます。⑵ I Want A Woman はロビンらしい、ひいてはラットらしい曲と言っていいはずで、LAメタルを代表するような曲だとも思います。

そして、ラットとして初のバラードとも言われた ⑸ I Want To Love You Tonight ですが、私はこれが好きでして、曲の入りから痺れますし、ドラマチックに歌い上げるスティーブンに「こういうのもありじゃない!」と嬉しくなったものです。ウォーレンのソロはエモーショナルで、そのトーンもすばらしいです。

⑹ Chain Reaction はラット的爆上がりソングで、これを嫌いな人はきっといないでしょう。

私は終盤の ⑼ What’s It Gonna Be から⑽ What I’m After の流れが大好きでして、この2曲はラットの隠れた名曲だろうと確信しております。

次作となる『Detonater』でロビンの影はより薄くなってしまい、時代の変化もあってラットの活動は止まってしまいます。ラットを象徴するような曲を書いてきたロビンはエイズだったこともあって2002年に亡くなってしまいます。これは本当に残念でした。

しばらく後に再結成したまではよかったものの、何やら分裂したりしているのを聞くとガッカリしますが、とにかくこの頃までのラットはキラキラしてめちゃくちゃカッコよかったのです。いま振り返ると、本作はそんな華やかな時代が終わろうとしている時にリリースされた1枚だったのかもしれません。

のちにやってくるグランジ・ムーブメントは、グラム・メタルや産業ロックと呼ばれる音楽がチャートを席巻した反動なのか、虚飾を排したスタイルで、何を訴えるかが重要になっていきました。

それはそれでシビれたものですが、最近になって感じるのは「難しいことを考えずにノレたグラム・メタルって最高!」ということでして、思春期にこれらの音楽を体験できた自分を幸せに思いますし、きっとこんなおじさんがメタル・ファン高齢化の一翼を担っているのでしょう。

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