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やっぱり熱量に優るものはないと実感する『Funeral』 ARCADE FIRE

ちょっと迷いました(理由は後述します)けど、かなり聴き込んだアルバムなのは間違いありませんし、熱心にフォローしていたバンドですので、やっぱりここで取り上げてみたいと思います。

アーケイド・ファイアはバンドというよりは楽団といった感じのグループで、ヴォーカル/ギターのウィン・バトラー(テキサス出身)がモントリールへ移り住み、そこで出会ったレジーヌ・シャサーヌ(のちにウィンと結婚)と結成されたのが始まりです。

2003年のEPを経て、初のフル・アルバムとなったのが本作『Funeral』(2005年)になります。

最初にバンドを知ったのはU2がVertigoツアーで 彼らの “Wake Up” をオープニング曲として使っていたことからでした。それはそれは高揚感溢れる曲で、「これは誰なの⁈」と驚いたのです。

「子供たちよ、目を覚ませ」と歌われる “Wake Up” をダウンロードした私は、仕事で奮起が必要な時に繰り返し聴くようになりました。

当時はまだオフィシャルな映像などほとんどなかったYouTubeでしたが、誰かがアップしてくれた階段の踊り場みたいなところで演奏するバンドと、そこで大合唱する聴衆の様子に熱くなったのです。

CDを入手した私は、それまで聴いてきた主に4人編成のバンドとは違う、多種多様な楽器で演奏される曲の数々に驚き、それはもう大興奮。70年代をはじめとしたさまざまな音楽にもう少し精通していたらあんなには入れ込まなかったかもしれませんが、当時の私にとっては新しい音楽になったのです。

⑴ Nighborhood #1 の昂まっていく感じはたまりませんし、⑶ Une Année Sana Lumiere 終盤のテンポチェンジにはわかっていても熱くなり、⑷ Nighborhood #3 (Power Out) のコーラスというよりは声出しな感じも情熱的でグッときます。

しっとりとした ⑸ Nighborhood #4 (7 Kettles) では突っ走るだけじゃないところを魅せてくれますし、ここまでを組曲として締めくくるような ⑹ Crown Of Love へと続きます。

そして、⑺ Wake Up を迎えるわけですが、アルバムを頭から聴いてきてここで再び盛り上がれるこの曲順には「ありがとう」しかありません。一瞬でその場にいる人々をひとつにすることができそうなこの曲は、時代を代表するロック・ソングになったと思います。


⑻ Haiti は、ここまで印象的なコーラスを聴かせてくれていたレジーヌがヴォーカルで、彼女の母親の体験(ハイチ軍事政権下)がもとになっているそうです。

本作から最大のヒットとなった ⑼ Rebellion(Lies) を挟んで、再びレジーヌが歌う ⑽ In The Backseat でこの上なくエモーショナルに終わっていきます。

ヴォーカルやギター、ドラム(パーカッション)はもちろんのこと、様々なところから聴こえてくる木琴やヴァイオリンまでもが、これらの楽器からイメージされる“アンサンブル”とは対極にある、もはやパンク的と言ってもいいくらいの熱量で演奏されるのが私にとっては新鮮でした。彼らの情熱が結果としてそう感じさせるのでしょう、震えるぜ。

アーケイド・ファイアは本作で注目を集め、デヴィッド・ボウイと共演したり、3作目となる『The Suburbs』ではグラミー賞を取ったりとインディー・バンドとしては想像もしていなかった飛躍を遂げます。

モントリオールへ移り住んだ影響なのか、ウィンは外から見たアメリカを語る機会も多く、意識高い系バンドの代表格にもなったと思います。

ところがです。

2022年、複数の女性がウィン・バトラーによる性加害を告発します。2016年から2020年の間のことらしく、ウィンは不倫関係を認めつつ、「合意の上だった」と主張しているそうな…。

勝手なもので、これが Sex, Drug & Rock'n'Roll 系バンドなら「仕方ない」って感じなんですけどね。アーケイド・ファイアの場合はウィンの妻であるレジーヌの存在感も大きなバンドであり、尚且つ、これまでの意識高い系活動が全くもって薄っぺらいものに感じられるようになって、急速に冷めました。

音楽とは切り離して考えたいところですが、少なくとも2017年リリースの5th『Everything Now』以降はどうにもこうにも白々しく響きますね(いやこれも勝手なもんですけど)。やれやれという感じで本当に残念です。

そんなこんなで本作について書く意欲を失っていたのですが、飼い犬が亡くなったこともあって『Funeral(葬式)』と名付けられたアルバムを改めて聴いてみたのです。するとやっぱりそこにはデビューアルバム特有の情熱が感じられ、「音楽において熱量に優るものはないかもな」と実感した次第です。

色々とありましたが、00年代を代表する1枚なのは変わらないと思います。


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