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めくるめく感動の音世界 『This Strange Engine』 MARILLION

ネオ・プログレッシヴロックとか呼ばれるマリリオンは、1983年に1stアルバム『Script for a Jester's Tear』をリリースし、70年代に活躍したプログレッシヴ・バンドの多くが停滞、あるいは路線変更を図る中で、その音楽形式を継承するバンドとして活動していきます。

1989年にはヴォーカルがフィッシュからスティーヴ・ホガースに交代。それまでアートワークを担当していたマーク・ウィルキンソンの世界観と相まってか、「フィッシュ期こそがマリリオン」といった意見もよく見かけますが、私が初めて聞いたマリリオンはホガース期の『Brave』(1994年)。そこにこだわりや違和感がないままに今まで聴いているバンドです。ホガースに代わってからだってもう35年ですから、間違いなく尊敬に値します。

中でも『This Strange Engine』(1997年)は長らくの愛聴盤なのですが、本作はEMIとの契約を失ってから初めてリリースされたアルバムであり、色々と厳しい状況でのレコーディングになっただろうと思います。(いわゆる)メジャー・レーベルのプロモーションがなかった本作は、バンドの歴史で初めて全英トップ40にランクインした曲がないアルバムになってしまうそうです。

しかしながら収録されている曲の充実ぶりは凄まじく、良い曲が良い音で奏でられる、めくるめく感動の音世界なのです。

⑴ Man Of A Thousand Faces の壮大さには本当に感動しました。あの頃、この手の曲をやってくれるバンドは少なかったように思います。大げさすぎるという指摘もあるかもしれませんが、そんなものも吹っ飛ばしてくれるくらいにやり切ってくれています。いま聴いても感動する。(↓つい最近になってRemixが配信されたのでそちらを貼っておきます)

現在の世界情勢に照らし合わせても通用する  ⑵ One Fine Day、ツアー生活を反映した ⑶ 80 Days と聴きやすいメロディアスな曲が続き、憂いを含んだホガースの声がこの上なく活かされます。

ロックな ⑹ An Accidental Man でバンド感を堪能し、ダイナミックな展開でプログレ要素満載の15分を超える ⑻ This Strange Engine で終わります。

トータルで1時間10分、バンドの演奏も素晴らしいです。本作でも今どきこんなにも望ましい形でキーボードのソロが入ってくるのを聴けるのはありがたいですし、リズム隊は本当に器用です。

そして、ギターのスティーヴ・ロザリーはもうちょっと評価されていいんじゃないかと思います。ロングトーンの響きにはうっとりしますし、バンドの音世界を司っているのはやはり彼のギターです。実はエモーショナルなプレイも素晴らしく、大好きなギタリストの1人です。(↓『Radiation』収録のBorn to Runのギターソロ、極上です)

84年以降、ヴォーカル以外のメンバーチェンジがない彼らは、ライブアルバムも多数あり、そこでもそのクオリティを魅せてくれています。

マリリオンはEMIを離脱した後、バンドのWEBサイトを充実させ、今でいうクラウドファンディングの先駆者と呼べるような、ファンにサポートを受ける形でアルバムを制作するなど、レーベルに頼ることのない独立した活動を続けています。

ホガースが入った時にバンド名を変えた方がよかったんじゃないかと思わずにはいられないこともたくさんあるのですが、最近だと2022年に『An Hour Before It's Dark』をリリース。マリリオンのまま、まだまだ元気にやってくれそうです。 


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