高校生の鬱屈を吹き飛ばしてくれた 『Seasons In The Abyss』 SLAYER
高校生になる少し前から、ハードロック/ヘヴィメタルにジャンル分けされるような音楽をよく聴くようになりました。
ボン・ジョヴィやホワイトスネイクのヒット曲から自然と関心を持ち始めたこれらの音楽は、ほとんどの場合は難しいことを考えずにそのリフ、ビッグコーラスを主体にしたサビ、ギターソロを楽しんでいればよいだけの、とてもありがたい音楽でした。
決して皮肉ではなく、とてもわかりやすかったのです。歌詞なんか全く気にしてませんでしたし、カッコいいリフさえ聴こえてくればそれで大満足でした。
ただ、この手の音楽はどういうわけかより速く、よりヘヴィなものを聴いてみたくなるもので、それらを知っている方がなぜか優越感に浸れたのです。
当時、そんな若造の欲望(トガり)を満たしてくれたのがスラッシュメタルであり、メタリカやメガデスにアンスラックス、そしてスレイヤーのBIG 4だったと思います。その中でもスレイヤーはより尖った存在でした。
メタリカはもちろんのこと、メガデスやアンスラックス、テスタメント、エクソダス、オンスロート(スティーヴ・グリメットも亡くなってしまいましたね…)なんかを聴くようなった私でしたが、スレイヤーはその不気味なアートワークや雑誌で見る強面なバンドの写真に引きましたし、住んでいた旭川ではレンタル店にもそれほど置いていなかったこともあって、簡単に聴けるような音楽ではありませんでした。
そんな中、受験を控えて様々な鬱屈を抱えながら過ごしていた時期にリリース(1990年10月)され、レンタル店にも入荷されたのが『Seasons In The Abyss』でした。
イライラしていた私は激しい音楽を求めて相変わらずの不気味なアルバムジャケットにも関わらずすぐに本作をレンタルし、テープに録音。バス通学に切り替える時期(冬は雪で自転車に乗れなくなるのです)でもあり、行き帰りに結構な頻度で聴くようになりました。
いま考えると旭川でバス通学する高校生がイヤホンで聴いていたのがスレイヤーとはなかなかなもんですが、リリースされたタイミングもそのアグレッシブな音も巡り合わせがよかったとしか言いようがなく、当時は夢中になりました。
スレイヤーは2nd『Reign in Blood』で全10曲、29分の驚速攻撃アルバムを、3rd『South Of Heaven』でスロー/ミドル・テンポを主体にしたべヴィネスアルバムをリリースしており、本作はその2作の中間くらいに位置付けられる、(スレイヤーなりの)緩急があるアルバムだったことが幸いしました。さほど抵抗なく全編を聴くことができたのです。本作はビルボードでも40位まで行ったそうですから、すごい時代です。
⑴ War Ensemble から激しさは全開で、受験を控えてままならない日々のイライラを吹き飛ばしてくれました。噂には聞いていたデイヴ・ロンバードのドラムでしたが、その速さはもちろん、重さに驚かされました。
⑸ Dead Skin Mask で不気味な響きをスローに展開した後には再び、スレイヤーに求められるスピード曲 ⑹ Hallowed Point を配置し、⑻ Temptation では意外なまでのキャッチーさを見せてくれます。
心を捉えたのは ⑽ Seasons In The Abyss で、これは今でも時折聴くほどに好きな曲です。「トム・アラヤってこんなに歌うんだ⁈」と驚きましたし、曲の持つ雰囲気、展開が最高で、スレイヤーらしさも全く損なわれていません。いやいま聴いても超カッコいい。
スレイヤーはデビュー当初、そのスタイルからある種のキワモノ扱いだったこともあると思いますし、スラッシュメタルのマストアイテム『Reigh In Blood』収録の「Angel Of Death」に代表されるような物議を醸す歌詞は歓迎できるようなものではありませんが、本作との出会いから多くのアルバムが私のiTunesライブラリには入っています。
次作となる『Divine Intervention』も好きですし(ポール・ボスタフだってめちゃくちゃすごい)、ファンには不興を買った『Diabolus In Musica』も私は結構好きです。
スラッシュメタルは想像を遥かに超えて大きな拡がりを見せました。セパルトゥラやパンテラが登場し、メジャーになっていくとともに、よりコアなニーズを満たしてくれるバンドが無数に出てきて細分化されていきますが、当時(旭川に住む高校生)でいえばスレイヤーやエクソダスなんかがよりコアな存在で、それを聴いていれば満足でした。
多くの曲を書いていたジェフ・ハンネマン(ギター)が2013年に亡くなり、エクソダスからゲイリー・ホルトが加入して継続していましたが、バンドは2019年にその活動を終えました。
普通に考えれば、ヒット曲があるわけでもないのにこんなにも長く熱狂的に支持され、体力的にも厳しいであろう激しい音楽をあの年齢まで続けられた事は驚異的でしたが、スッパリと辞めてしまうのもスレイヤーらしさなのかもしれません。
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