時が経つほどに品のよさが沁みてくる 『Listen Without Prejudice Vol.1』 GEORGE MICHAEL
私の洋楽原体験と言っても過言ではないWHAM! を経てソロとなったジョージ・マイケルは、1stソロアルバム『Faith』を大ヒットさせました。
おそらくは音楽的ルーツであろうモータウンやソウルを推し進めつつも洒落ポップを極めた曲の数々は軒並みチャート上位にランクインし、世界中が期待する中で1990年にリリースされたのが『Listen Without Prejudice Vol.1』です。
アルバムジャケットを見た瞬間から「ちょっと様子が違うな」と感じさせられますが全くその通りで、WHAM!での超絶キャッチーなポップソング(←決してそれだけではないんですが)を聴いてきた身からすれば、相当に落ち着いた大人の音楽が並んでおり、「思えば遠くに来たもんだ」と言わずにはいられない内容になっていました。ごもっともなアルバムタイトルをつけたもんです。
ただ、期待していたものよりは地味な音楽ではありましたが、レンタルしてカセット(たぶん、マクセルのUD IIだったと思います)に録音した当時からどの曲も気に入って、のちにCDを買い、今もよく聴くアルバムなのです。
前作が「Faith」から始まったことを考えると、⑴ Praying For Time は「これが1曲目⁉︎」と驚きましたが、今となってはこの曲以外にないと思います。しっとり始まるこのオープニングこそがふさわしい。
⑵ Freedom 90 は「I Don’t Want Your Freedom ♪」とCMですら流れていた大ヒット曲を思い起こさせる、ほぼ反則な曲名で期待しかありませんでしたが、まさかこんな風になるとは…。最近ではLordeの「Solar Power」が似ていると話題にもなりましたが、6:31があっという間に過ぎるゴキゲンな曲なのです。しかしながら歌詞は彼のこの頃の決意表明のような感じでグッときます。
そしてスティーヴィー・ワンダーのカバーとなる ⑶ They Won't Go When I Go が続きます。もともと歌の上手い人だと思っていましたが、そのことを再認識させられる曲です。アレンジもヴォーカルにフォーカスされており、上手さが際立つ仕上げになっています。
続く⑷ Something To Save も大人感とポップさの塩梅が素晴らしい、最高のメロディ・ラインを持った曲になっています。3分ちょっとで終わるのがまたお洒落。
⑸ Cowboys And Angels はのちのアルバムで色濃くなる雰囲気を持った7分を超える曲で、当時ヘヴィメタル/ハードロックを中心に聴いていた私が初めて気に入ったジャジーな曲となりました。
⑹ Waiting For That Day ではクレジットにミック・ジャガーとキース・リチャーズの名前があり、曲中で「You Can't Always Get What You Want ♪」が繰り返されます。ストーンズのファンがどう感じるのかはわかりませんが、私にとっては素晴らしいセンス。
⑺ Mothers Pride は前作からの「One More Try」を考えれば最もわかりやすい曲かもしれません。「A Different Corner」などにも通じる、美しいバラードだと思います。
⑻ Heal The Pain は抑えの効いた美しいコーラスが聴ける曲で、次作『Older』がアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げられていることに通じるかのような音です。恥ずかしながらつい最近まで知りませんでしたが、ポール・マッカートニーとデュエットしたヴァージョンも発表されています。
「こういうのも書けて歌えるんだ」と思わされる ⑼ Soul Free をダンサンブルに聴いた後、神々しい ⑽ Waiting (Reprise) でアルバムは終わります。
思わずくどくどと全曲について書いてしまいましたが、派手な曲はないものの、どの曲もスキップせずに聴けるアルバムであることを再確認してしまいました。
多くの人にとっては「Last Christmas」(私も毎年聴きます)で知られるジョージ・マイケルかもしれませんが、ぜひこちらも聴いてみてほしいです。
ジョージ・マイケルは本作の後くらいから音楽以外のことで世間を騒がせてしまうことが多くなりますし、公然わいせつで逮捕されている人の音楽を表現するのに適切かどうかはわかりませんが、私にとって本作は年を追うにつれ、その品の良さを隅々まで感じるようになった飽きることのない傑作です。
本作以降の作風は(私にとっては)いささか行き過ぎで、この『Listen Without Prejudice Vol.1』が絶妙だったのか、WHAM!から通してみても最も聴いたアルバムになっています。Vol.2が世に出てくれるとよかったのですが…。
アレサ・フランクリンやエルトン・ジョンと共に歌い、フレディ・マーキュリーのトリビュートでは「Somebady To Love」を歌うという、その歌唱力を証明するのにこれ以上のものはないといった感じでありながらも、曲が書けて音も作れてプロデュースもしていたジョージ・マイケル。その人生は色々と難しいこともあったのだろうと思いますが、53歳の若さで亡くなってしまったのは本当に残念です。
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