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弁護士の交渉学【遺産分割編②】

新刊書籍『弁護士の交渉学―事例にみる実践的交渉スキル―』の一部を抜粋してお届け!
第2弾は「第3章 遺産分割事件の交渉学」の「特別受益と寄与分にこだわる相続人との交渉」から、Scene1・2を特別公開します!

[受任事件]
Xは、60歳の男性(会社員)であるが、亡父Bの遺産について弟Y(58歳・医師)、妹Z(55歳・主婦)と分割協議が進まないとのことであり、A弁護士に裁判外の協議をすることを依頼した。
Xによれば、遺産は、自宅の土地建物、預貯金、株式であるが、弟Yは、私立大学の医学部に進学していてかなりの学費を父親に出してもらっているし、妹Zも、頻繁に父親に面会に来ていてそのたびに生活費の不足分をもらっていたとのことである。また、88歳で死亡した父親Bは、10年前に妻に先立たれた以後はX夫婦との2世帯住宅に住み、X夫婦が食事や身のまわりの世話をして食費等を浮かせてきたし、最後の5年間は認知症に罹患したために、自分とその妻が自宅介護に務めてヘルパー費用を浮かせているから、かなりの寄与分があるはずだとも述べ、単純に法定相続分で3等分するような遺産分割はとんでもないと声を荒らげている。
A弁護士は、YとZに受任通知を送り、遺産分割の協議をしたい旨を伝え、YとZに事務所に来てもらった。

▶Scene1は、こちらから

S c e n e 2  依頼者と打ち合わせる

A Xさんが述べていたYとZの特別受益については、相当に強い拒否がありました。また、Xさんの寄与分については、2人とも到底認められないといって
いました。これ以上の話し合いを継続することは無理なように思います。

X そこをなんとか説き伏せるのが弁護士ではないのですか。

A 弁護士は、力尽くで交渉相手をねじ伏せることはできません。
Xさんが主張しているYとZの特別受益については、どこまで証拠があるのですか。

X Yの私立大学医学部の学費や寄付金の額は、弁護士さんが調べてくれると思っていました。下宿代と図書費も、具体的な金額ではないにしても、当時の平均的な額は調べられるはずです。

A 授業料と入学金は、大学に対して弁護士会照会をすれば回答がもらえますが、寄付金はかなり昔のことなので資料が残っているかどうかです。
下宿代や図書費は、平均的な額といっても調べるのはなかなか難しいと思います。

X 適当な金額を主張してYの出方を待つようにしてもらえませんか。

A 任意交渉だからといって、そのようないいかげんな駆け引きはできません。Zに対する生活費の援助の証拠は、何ですか。

X 亡父Bがそういっていたことです。私は、数回聞いています。

A それだけですか。

X それで十分ではないですか。父親は嘘をいうような人ではありません。

A 裁判は、証拠がすべてです。証拠がなければ、裁判官は認めてくれませんよ。

X それをなんとかするのが弁護士の腕でしょう。

A 困りましたね。とにかく、調停を申し立てることにしましょう。いいですか。

X 仕方ないでしょう。でも必ず私の主張が通るようにしてくださいね。

A 弁護士は依頼者が希望する結果を保障してはいけないことになっているのです。手は抜きませんが、保障はできかねます。
それでも不満というならば、別の弁護士を探していただくことになりますが。

X 分かりました。合点はいきませんが、先生のいうことに従います。

※本文中に登場する事例は筆者らの創作によるものです。実在する事例とは一切関係がありません。


交渉のポイントは、書籍にて解説!


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