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結婚しないと「いけない」の?|「結婚」制度をシステム的に見たときの意味

先日、元でんぱ組.incの最上もがさんが妊娠を発表されてましたね。ニュースによれば、結婚する予定はないということでした。

最上もが、第1子妊娠を報告「新しい命を授かりました」 結婚の予定なし、今後の活動は“マイペース”に(オリコン)(2020/11/12)

理由はわからないですし、筆者自身は是とか非とかの感想はないですが、このニュースを見たとき、これから結婚しないという選択をする男女は増えていくんだろうなぁと思いました。

結婚の社会的意味は普遍的になくなることはないと思うんですけど、価値観の多様化につれて、これまでとは違う選択をとる人が増えていく気がしますし、

結婚の法的な意味っていうところでいうと、実は、法定相続権を発生させること以外にさほど大きな意味はないんですよね。(←私見です)

ということで、今回は、結婚をシステム的に見たときの意味について、法的なところを書いてみたいと思います。

なお、デリケートな話題かなとも思うので、気になる方はブラウザバックしていただければと。


決定的に違うのは、法定相続権の発生

結婚することの主な法的効果をざっと見てみると、以下のような感じです。

結婚の法的効果を大きく分けると3グループあって、①夫婦としての地位に関するもの、②夫婦財産制、③法定相続権の発生、です。

親族法的意味
 ∟①夫婦としての地位に関するもの
   ∟夫婦同氏の原則(民750条)
   ∟同居協力扶助義務(民752条)
   ∟貞操義務(民770条Iなどの解釈上)
   ∟成年擬制(民753条)
 ∟②夫婦財産制
   ∟夫婦別産制(民762条Ⅰ)
   ∟婚姻費用分担義務(民760条)
   ∟日常家事債務の連帯責任(民761条)
相続法的意味
 ∟③配偶者相続権(民890条)


しかし、①の夫婦としての地位に関するものは、それを目指して結婚するというような内容ではない気がしますし、②の夫婦財産関係っていうのも、ぶっちゃけそんなに意味はないともいえます。

で、結婚の法的な意味の決定的なところは、結論から言ってしまうと、③の法定相続権の発生です。(←私見です)


結婚しないと相続でどうなる?

結婚すると、配偶者としての法定相続権が確固たる地位として発生します(配偶者相続権といいます)。

結婚しないと(つまり内縁関係やパートナー関係のままでいると)、相続権はないです。これは解釈とかで動かないです。

なので、内縁関係やパートナー関係の場合、何もしなければ、遺産は基本的に何も承継されません。法定相続権がないからです。

遺産を承継させようと思うと、結婚していない場合は、遺言によって遺贈するという形をとるのが基本になります(※特別縁故者とかもあり得ますが、要件が厳しく手続もややこしいです)。

ただ、遺贈を受ける地位も、法定相続人に遺留分というのが保障されている関係上、配偶者相続人としての地位よりは弱いといえます。


Caseで見てみると?

たとえば、パートナー関係の男女で、親がいて、子はいない、といったケースで、男性が死亡した場合を考えてみます。

【Case】
父ーー母    父ーー母
  |       |
[男性]ーーーー[女性]

〇結婚している場合

この場合、結婚していたら、女性には配偶者相続権がありますので、

女性(配偶者):男性の父母(直系尊属)=2:1

という割合で、法定相続することになります。

法定相続分を超えて、女性に全財産を相続させる旨の遺言をすることもできます。

が、男性の父母には遺留分(この場合、遺産の6分の1)があるので、それを行使された場合、相続させる旨の遺言はその分減殺され、遺産の6分の5までが女性に相続させることのできる最大限になります。

〇何もしていない場合

結婚していなくて、遺言も何もしていなければ、女性は男性の遺産から何も承継できません

文字どおり、ゼロです。

〇結婚していないが、遺言はしている場合

結婚していなくて、遺言で遺贈していれば、女性はその分の遺贈を受けることができます。

が、男性の父母には遺留分(この場合、遺産の3分の1)があるため、それを行使された場合、遺贈はその分減殺され、遺産の3分の2までが遺贈を残せる最大限になります。

なお、この遺言による遺贈は、男女の性別とかとは関係ないものなので、LGBTの方などのパートナーの場合も、基本的にはこの方法になります。

〇小括

というわけで、結婚した場合には、相続時に、配偶者相続権の強さが如実に現れることがわかると思います。


夫婦財産制って何?

あと、結婚すると、夫婦の財産関係については、夫婦別産制というのがとられています(厳密にいえば、法定夫婦財産制の場合)。

婚姻中でも、お互いの財産は別々、つまり、夫名義の財産は夫の財産、妻名義の財産は妻の財産、ということです(婚姻中は、名義によって、別々の財産とされる)。

なので、実質的には夫婦共同で築いた財産(=夫婦共同財産)であっても、夫婦共同財産というのは、婚姻継続中は、潜在的にのみにしか存在しないわけです。
(例)家事分担で貢献していても、夫名義の不動産は婚姻中は夫の財産でしかない

夫婦共同財産であることが顕在化するのは、お別れするときです。

別れには、「死別」と「離別」(=離婚)という2つがあるわけですが、法的には、「死別」の場合は、夫婦共同財産を相続で承継させる、「離別」の場合は、夫婦共同財産を財産分与によって分け合うという形で、財産を承継させていくわけです。

離別(=離婚)のときは、夫名義や妻名義といった名義にかかわらず、婚姻中に形成された財産は夫婦共同で形成した共同財産とみて、財産分与されます。このときに、実質は共同財産であることが顕在化しているものといえます。

ただ、上記のような夫婦財産制の話はどれも、結婚するとかしないとかの話でいくと、「…で?」って感じなのかなと。

それだから結婚する、という感じはしないような気がしますし(むしろ財産分与のときにモメるので、若干マイナスという面すら感じなくもない)。


結び

ということで、結論をまとめてしまうとどうかというと、結婚という制度について社会的な意味をそんなに感じなくて、相続権の発生に関してそんなに興味がない人であれば、結婚をする意味は、実はそんなにないともいえます。(←私見です)

あくまでも「冷めた目線で見ると」というひとつの見方でしかないですけど(汗)、理屈で整理していくと、たぶんそういうことになるんじゃないかなと。

そして、そういう風に理解・整理している人は、おそらく無理して結婚しようとしなくなるでしょうし、そういうことも増えていくんじゃないかなぁ、という呟きでした。

※なお、本記事の「法的」という意味には、社会保険や税金のことは含まれていません


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[注記]
本記事は筆者の私見であり、筆者の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。


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