「ブルーピリオド」と著作権クレジット
「ブルーピリオド」(山口つばさ)おもしろい。遅ればせながら読んでるけどおもしろい。
親族で美大に行った人がいて(東京藝大ではない)、何となく予備校らしきものに行ってデッサンしていたのは知っていたんですけど、こういうことをしていたのか…と思うと、今更ながら感動したり。たしかに、石膏像のデッサンが量産されている時期などがあったような気がする。
YOASOBIの「群青」の原作にもなっているように、青春群像劇という感じで(筆者の印象)、シンプルにすごくおもしろいのだけど、
作中で、ガチの美大生などの絵が使われているのが印象的だった(作家さんや受験生の作品もある模様)。
その昔、「ハチミツとクローバー」(羽海野チカ)も美大を舞台にした名作なのだけど、たしか実写化された映画は興行的には当たらなくて、
その原因のひとつとしてあげられていたのが、実写で出てくる作品群が、ほんとにすごいのかどうか今イチわからない(そのため入り込みにくい)、という評があったような気がする。
その点が解決されているというか、素人目に見ても「本物」と思える絵が出てくるので、むしろ「美大の世界ってこんななのか…!」という感じでリアルに入り込める。
(ストーリー上、苦しみ抜いて生み出された作品なので、「ん?」という絵が出てくると難しいと思うけど、普通に「おおお…!」ってなれる。少なくとも素人目には。)
で、ここからは法律コラムっぽく法律の話なのだけど、絵のほかにもうひとつ目に留まったのは、作中で絵が登場するコマのそばに、作者の氏名がちゃんと表示されているところである。
氏名表示権
著作権法上、著作者には著作者人格権のひとつとして氏名表示権が認められている(著作権法19条1項)。いわゆるクレジットを表示する権利である。
氏名「表示」権という名称ではあるけれども、文中にあるように、「表示しない」という選択を行使する権利でもある。
要するに、表示するのか表示しないのか、表示するとしたらどう表示するのか、を決める権利が氏名表示権である。
氏名表示権の例外は、2つある。
ひとつは、従来の表示を変えない場合で、
とされている(著作権法19条2項)。
もうひとつは、著作者の利益を害するおそれのない場合で、
とされている(同条3項)。
で、話を戻すと、「ブルーピリオド」は、こういうのもちゃんとやっているということである。
ただ、法令上のものという意味ももちろんあると思うけれど、そういうものというよりは、単純に作者へのリスペクトを込めて、というものなのだろうと思う(筆者の想像)。
あとがきなどで作中の絵の作者への感謝の言葉などが綴られているのも、ほっこりした気分になれる。
出典の明記
ちなみに話は変わるけれども、氏名表示とよく似ているのは、出典の明記(著作権法上は「出所の明示」と呼ばれる)である。
が、著作権法上の位置づけとしては両者は一応別モノになる。
氏名表示権は、著作者が氏名を表示する・しない等を決めることができる権利だけれども、
著作権法上、一般的に出所明示の義務を課しているルールはなく、一応それに近しいのが、著作権の制限によって利用する場合の出所の明示義務になる。
日常的には引用のケースが一番多いと思われるものの、要するに、
「著作権者の承諾を得なくても、著作権法上利用を許しているケース(著作権の制限と呼ばれる)もあるけど、その場合は、ちゃんと出所を明示しましょうね」
というルールである。
何が言いたかったかというと、たとえば、社内の資料だからって、引用元の記載を省略しちゃっていませんか!?(あるいはそもそも知らないとか)、みたいなことである(笑)。
結び
ブルーピリオドの作中に登場する絵に作者の氏名がちゃんと出ているのを見て、ちょっとジーンと来るところもあり(お互いのリスペクトが垣間見える)、
また、社内資料を作成するときに、引用する資料の出典記載をせずにやってませんか!?というのを思い起こした話でした。
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