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有名人の大麻取締法違反被疑事件を見て思うこと|解釈論と立法論の区別

有名俳優の方が大麻所持の被疑事実で逮捕されて、話題になっています。

noteに書くかどうか迷ったんですが、Twitterなどを見ていると、やり取りが混乱(混同?)してるなー、と思うところがあったので、一応書いてみたいと思います。

この話って、Twitterでのやり取りを見ていると、ある意味イデオロギックというか、ドグマ的というか、感情的な議論の対立があるように感じるので(また、個人的にそういうのはあまり好きじゃないので)、ここでは感情を無にした技術論のみを書いてみたいと思います。


違法か違法でないか

「違法か違法でないか」という問いに対しては、「違法」です。被疑事実が事実であれば、ですけど。

同じ意味ですが、「犯罪か犯罪でないか」という問いに対しても、「犯罪」であり、議論の余地がありません。

自分は、有名投資家さんのツイートが好きでよく見ているのですが、テスタさんのツイートに全てが表現されています。

現行法下では犯罪、見直されて(法改正されて)犯罪でなくなったら犯罪でない。仰るとおりで、これが現時点での結論としては全てです。


また、同じく有名投資家であるDAIBOUCHOUさんのツイートにも、端的に正しいことが書かれています。

法律で禁止された事に議論の余地はない。文句があるなら国に言うしかない(→私なりに言い換えれば、「国会を通して法を改正するしかない」)。これが全てです。


では、大麻の”合法性”を主張する人たちの主張というのは何なのか?

では、「でも合法な国もある」とか、「大麻にもメリットがある」「国際的にはそういった国も増えているんじゃないか」といった国際情勢に関する意見や主張というのは一体何なのか?というと、これは解釈論ではなく、立法論です。

立法論というのは、法律の制定に関する議論や、法改正に関する議論と思えばいいです。これに対して、解釈論というのは、現行法に関する解釈の議論のことです。

「立法論と解釈論を混ぜない」というのは法律的な議論としては基本中の基本でして、以下のサイトがわかりやすく書いてくれていたので、引用します(太字は筆者による)。

立法論とは、一定の目的を実現するためには実定法の変更や新たな制定を行うことを主張する立場(大辞林)です。
解釈論とは、現在ある実定法に基づいてできる解釈の範囲内で主張を行う立場(同)です。

ゼミでは、現行法に基づけばどう解釈できるのか(解釈論)が話し合われた後、現行法をどう改めるべきなのか(立法論)が話し合われました。

解釈論の最中に立法論を唱えれば、厳しく咎められました。

▽引用サイト:労働法のゼミで学んだ立法論と解釈論の峻別 / KEEN WIT 国語塾


「合法な国もある」とか、「大麻にもメリットがある」「そういった国も増えている」といったことは、現行法の解釈論としては採用の余地がなく、あくまで立法論です。ここを混ぜているので、Twitterのやり取り(議論?)がモチャっとしてくるわけです。

別の言い方をすれば、立法論を解釈論に持ち込もうとしている(かのような人が散見される)ので、変な感じになるわけです。


そうすると?

そうすると、「合法な国もある」とか、「そういった国も増えている」といったことを主張する人が、大麻を合法化するには、2つの方法があります。

1つは、法改正をすることです。もう1つは、現行法に関し、違憲無効の主張をすることです。いずれも、立法事実が重要になります。

立法事実というのは、法律の正当性(最高法規である憲法に照らした場合の合憲性)を裏付け支える社会的事実のことです。

規制目的の正当性、規制の必要性および規制方法・手段の相当性を、それを裏付ける事実状況が存在するか否かと関連づけつつ、検討・評価するというのが、違憲審査であり(佐藤幸治「憲法(第3版)」372頁参照)、また、法制定時または改正時の合憲性(=法規制の正当性)の検証でもあります。

① 法改正をすること

立法事実というのは、絶対不変の固定されたものではなく、その時代その時代の社会情勢の変化に照らして、変化しうるものです。

なので、「合法な国もある」とか、「そういった国も増えている」といった主張は、立法論としてはあり得ます。

そういった議論が高まって、国民の多数の共感を得られれば、国会を通して法改正をすればいいだけです。

逆に言うと、それができなければ、違法として扱うことを是とする人の方が多数を占めている社会であるということであり、それが法制化されているならば、自分の意見としての賛否にかかわらず、その社会に住む以上は、それを破れば違法になります。

② 違憲無効の主張をすること

また、違憲の主張に関しては、社会情勢の変化を理由に、現在の規制を正当化する理由(立法事実)が憲法に照らして存在しないことを主張して、それが裁判所に認められれば、法律は違憲無効となります。大麻取締法も、当然、例外ではないです。

しかし、違憲無効の判決が出た事件はこれまで本当に限られた数しかなく、それらとの比較の問題でいっても、大麻所持の規制について違憲主張が認められる可能性は、ほぼゼロと言っていいと思います。


ホリエモンさんの解説動画

このあたりの議論の峻別が、意外と(なんて言い方をすると失礼なんですけど汗)ちゃんと語られていたのが、ホリエモンさんの動画です。

▽伊勢谷友介さんが大麻取締法違反の疑いで逮捕された件についてお話します / 堀江貴文 ホリエモン

https://youtu.be/D60QsEtF2z8


順番に、沿革→立法事実に関する意見→結論(現行法下では違法)という構成になっていて、沿革と立法事実の変化に関するホリエモンさんの意見は語られつつも、結論としては、”あくまで立法論であり、現行法下では違法、よい子は真似しちゃダメよ”、という趣旨のことがはっきり述べられています(立法論に関する意見と、現行法の解釈がちゃんと峻別されている)。

くり返しになりますが、大麻の有効性や医療的メリットを挙げて合法化を言う、あるいは善悪の問題として必ずしも悪とは限らないと言う、といった主張は、もちろん主張として表現する分には全く自由なのですが(=表現の自由)、それは現行法の解釈論にはなりえず、違憲無効の主張もしくは立法論である、ということになります。

ホリエモンさんの動画は、立法事実に関する意見を述べつつも、最後の方で、現行法下での結論とはちゃんと切り分けられていたので、何というか自分などが言うのもおこがましいですけど、ちゃんとしてるな、と思いました(意見の中身に関する感想ではなく、議論の立て方がちゃんとしている、という意味です)。


結び

「合法化」するべきかどうか?というところ(立法論)については議論の余地があるとしても、「合法」かどうか?というところ(現行法の解釈論)については議論の余地がありません。

という、まあなんというか、当然のことをコラムっぽく書いてみました。


[注記]
本記事は筆者の私見であり、筆者の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。


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