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「ビデオドローム」感想

「宮本はこれ楽しめると思う」と20時45分のレイトショーに誘われ、数日後、約束の当日。僕は中央卸売市場に行く予定があり早朝5時半から起きていた。

市場に着いたらまず職員御用達のそば屋で腹ごしらえをし、それから走り回るターレーの間を縫うようにして魚を物色する。プロが忙しなく魚を仕分けたりさばいたりしている横で、素人が恐る恐る「これなんて魚ですか?」とザコ丸出しの質問をした。
「これはね、どんちっちアジ。普通のアジは脂肪分が7%ぐらいだけど、どんちっちアジは赤外線で管理されてるから15%以上のものしか流通しないんですよ」
へ~。どんちっちアジとイカを買った。

市場の喫茶店で一服。こういう店のチキンライスがうまいんだよなと味見のつもりで注文したら想定の倍ほど皿に盛られてきた。一時間前に食べた月見そばは胃の中に健在である。そんなこと知る由もないマスターはスイカもオマケしてくれた。お会計時にはハンドボール大のグレープフルーツまでいただき、選手さながらのグリップで帰路につく。このとき午前10時であった。

レイトショーに備えて一眠りしようとしたが満腹で寝付けず、それならばとアマプラでドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」を再生した。ぼんやりと画面を見つめながら、そういえばラーメン屋の「人類みな麺類」と「一風堂」が一週間限定のコラボラーメンをやってるらしいな、Twitterで様子を見てみよう、めっちゃ並んでるのか、まあ今はチキンライスでお腹いっぱいだし時間をずらして行ってみるか、などと考えているうちに、気付けばとわ子を3本観ていた。

お腹もこなれたし、どれ、「人類みな麺類」に行ってみるかと阪急南方駅に着いたのが16時。時間をずらして行ったにも関わらずラーメン屋の前には長蛇の列があり、ありつけたのは17時半。こんな日に限って炎天下だったのでみんな表情筋が汗に溶けていた。皆さん、日傘があると全然違いますよ。
ラーメンを平らげて梅田へ。父の日のプレゼントでも見繕うかと阪急百貨店の地下に向かうと、ものの数分で見つかった。グミ好きの父にぴったりな、高級グミである。思いのほか早く決まってしまったため時間を持て余し、待ち合わせ時間まで梅田スカイビルの麓の森で滝を見ていた。

19時半、友人と合流。映画の時間まで軽くご飯でも食べよう、さっきラーメン食べたとこなので、などと話していたのが嘘かのように、店では巨大なラム肉にかぶりつく。
口のまわりをベチャベチャにしながらふと時計に目をやると、上映開始は5分前に迫っていた。慌てて平らげ小走りで映画館に向かう。シアターではまだ予告映像が流れており、ほっと胸を撫で下ろした。と同時に一日の疲れがどっと襲ってきた。ここまで15時間起きている。今から2時間も意識を保っていられるのか?スクリーンには「マッド・ハイジ」「プー あくまのくまさん」といった驚異のラインナップが予告されていた。

「ビデオドローム」が始まった。ケーブルTV会社の社長が刺激の強い映像を追い求めるうちに、起承転結も何もない拷問や殺人が行われるだけの映像「VIDEODROME」にたどり着く。この映像を繰り返し観るうちに気が狂っていくという設定なのだが、正気と狂気の往来があまりにもシームレスで、ストーリーが疲労困憊の脳を上滑りしていった。今もよく分かっていないのでWikipediaを見ながら書いている。話は理解できないが、とはいえテレビのディスプレイが人皮になるなど狂ったものの造形は見応えがあり、それだけでも映画としては十分だ。半分ほどの理解度にしては最後にしっかりとカタルシスもあり、なんだったんだという気持ちとは裏腹に妙な充足感があった。

帰りの電車、理解できなかった部分を補うためにWikipediaを開くと冒頭にこう書かれていた。

1983年2月に公開されたが、あまりに難解なため製作費の半分も回収できなかった。


誰も理解できてないんかよ。

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