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エミーナの朝(13)

記念旅行 2

 アパートに向かって歩いていると、高校生ぐらいの女の子が追い抜いていった。

 この子は、さっき駅前で地図を見ていた。

 「若くて、元気ねー」と見ていると、その子は、分かれ道でスマホを見ながら、キョロキョロし始めた。

 ちょうどナゴンのアパートへの曲がり角である。

 わたしが近づくと、
「すみませーん。 お聞きしていいですか?」と近寄ってきた。

 女の子「コーポ·マツリカの場所、ご存知ないでしょうか?」

 エミーナ「あーら、そこ、わたしが今から行くアパートよ」と言って、曲がり角の先を指さす。

 女の子「あ、ありがとうございます。   スマホのマップが分かりにくくて」

 エミーナ「そうね、細い路地が入り組んでるからね。 じゃ、一緒に行きましょ!」

 女の子「ありがとうございます。助かります」

 こうして、彼女と一緒に歩き始めた。

瑠璃空島/ぷぅべる

 女の子「大学に通うために、最近、引っ越して来たんですけど、初めての街なので分らなくて」

 エミーナ「そうね、特にこの辺は、古い町並みが残ってるからね」

 女の子「わたし、お母さんに会いに行くんです」

 お母さんに会いに行くと言うことは、お母さんとは別居していることになる。

 ということは両親は離婚している可能性がある。 この子は、父親と暮らしているのか……

 わたしは、これ以上は詮索しないようにした。

 ちょうど、前方にアパートが見えてきた。

 エミーナ「あそこが、コーポ·マツリカよっ」と指さした。

 よく見ると、二階の通路に、ナゴンが立っていた。

 あらら、お出迎え頂くなんて、うれしい限りだわ。 そんなにわたしが来るのが待ち遠しいとは、と思って手を振ろうとした。

 その時、となりの女の子が「お母さーん!」と叫んで走り出した。

 あら、この子のお母さんも出迎えているんだ。
 と思って、アパートを見回したが、お母さんらしき人は、見つからない。

 ナゴンは手を振りだした。
 わたしも手を振った。

エミーナのホーム/エミーナ

 でも、ちょっと、へん。 ナゴンが見ているのは、走り出したあの子じゃないの?

 女の子がアパートに近づくにしたがって、ナゴンが見ているのが、確かに、その子であることがわかった。

 女の子は、アパートの一階に到達し、階段を足早に二階に昇っていく。

 それを、ナゴンが見つめている。

 二階に上がった女の子は、ナゴンに走り寄り、抱き合った。

 なっ、なんなの、このシーンは!
ナゴンが、あの子のお母さんだってぇ?

 わたしは、しばらく、抱き合っている二人を見つめて、立ち尽くしていた。

 ナゴンは、またしても、驚かしてくれた。 一体、どれだけ秘密を抱えているのよ。

 わたしが見つめていると、ナゴンとその子は、わたしに振り向き、一緒に手を振り出した。

 わたしは我にかえり、アパートの二階に上がり、二人のところへ行った。

 ナゴン「とにかく、中に入って」と、その子と唖然としたままのわたしを部屋に入れた。

エミーナのホーム/エミーナ

(エミーナの朝14へつづく)


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