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#73 101回目の営業メール

天国から地獄へ

最近、あることをきっかけに、コンテンツコンバーター界の師匠から直に教わる機会をゲットした。ここでは詳細は省くが、雲の上の存在だと思っていた方から直接アドバイスを賜ることができて、わたしはかなり有頂天になっていた。

ある日、その師匠がZOOMにてわたしのInstagramや今後の営業方針についてコンサルをしてくださるという機会に恵まれた。

緊張のあまり挙動不審になりつつも、師匠から、
「うん、方向性はこれでいいんじゃない? あとは継続して数を打つだけだね」
というお言葉を賜ったときは、天にも昇る気持ちになった。

しかし、次の瞬間、天から地下まで突き落とされることになる。

「この路線で100件営業すれば、1件ぐらいはひっかかるんじゃない?」

営業の鬼である師匠はさらっとおっしゃったが、会社員時代に営業経験のなかったわたしは、予想値の10倍の数値に衝撃を受けた。

「まあ、成功する人というのは、『これを10回やりなさい』と言われて、喜んで100回できる人なんだよね」

大掃除?それってなんですか?

以来わたしは、ライターの本業をややセーブし、主婦業に至ってはかなりの部分を投げうちながら、コツコツと100件目指して営業メールを送り続けた。

最初は企業のお問い合わせフォームに入力するのすらとまどい、
「『会社名』ってどうすればいいの?」
と迷い、最初の1社目に送付したときは、即パソコンを閉じて現実逃避するというヘタレぶりを発揮しつつ、どうにかこうにか営業メッセージを送り続けた。

幸い、人間とは何事にも慣れてくる生きものであり、50件を越えるころにはかなり日々のルーティーンとしてサクサク送れるようになってきた。

しかし、念願の100件を越えたころ、今度は新たな悩みに直面する。

そう。返事が来ないのである。

既存のお客様からは、暖かい励ましのお言葉だったり、ポートフォリオへの「いいね」だったりと、さまざまな方法でリアクションを頂いた。心折れまくりの日々の中、これは本当にありがたかった。

でも、新規の方々からは、機械送信の返信メールは来たものの、一向に音沙汰がない。まあ、あたり前といえばあたり前なのかもしれないが。

でも、これからどうしよう。それでもなお、この調子で200件をめざすべきなのか?

娘からのメッセージ

そうしたことをあれこれ思い悩んでいたとき、ふと作業デスクのわきに貼り付けてあった1枚の小さなプラ板が目に入った。

それは、娘が幼児のころ、母の日のプレゼントとして贈ってくれたプレゼントだった。100均で買える特殊なプラスチックの板に、マジックで絵や字を書いてからトースターで焼くと、いい感じに縮むというものである。

そこには、おそらく覚えたばかりであろうひらがなで
「ママへ、いつもありがとう! だいすきだよ💛
と書いてあった。

今やティーンズで、なかなか難しいお年頃の娘だが、当時はまだ3,4歳。わたしから文字を教えた覚えはないので、おそらくまわりに書いてある文字を見て、見よう見まねで書いたのだろう。

多分、正しい字形とか書き順とかではなかったであろう、20字足らずの短いメッセージ。
それでもとってもうれしかったのは、なぜだろう。

あれから10年近くたって、贈った本人は自分が書いたことすら忘れてしまっていて。それでもわたしが、作業机の傍らのいつでも見られる位置に置き続けているのは、どうしてなんだろう。

それは、小さかった彼女が当時の自分にできるだけのありったけの手段を用いて、自分の想いを伝えてくれたから。

たとえそれがどれだけ短く、つたない文字でも、そこには彼女の思いが丸ごと込められている。

だから、10年経とうと、20年経とうと絶対に捨てられない唯一無二の大事な宝物となったのではないだろうか。

人の心を動かすことができるのは、実績でもテクニックでもない。「人の心」。それだけだ。

「リスト」の向こう側に見えるもの

「想いを言葉に」
これはわたしがnoteのプロフィールページに掲げているテーマだ。
そもそも、わたしは何のために仕事をしてきたのだろう。

「100件営業しなさい」
こう言われてから、いつの間にかそれが目的地になってしまっていたことに気がついた。

その道の達人が書いたテンプレの文章を機械的に不特定多数の人に送り付ける。それはわたしでなくても、多分システムやAIとかでもできることだ。

100件の送り先。業界用語では、「リスト」といういい方もするらしい。英語を直訳すると「名簿」とか「一覧表」という意味にもなる。これらをわたしはどんな目で見ていたのだろうか。

いつの間にかひとかたまりの「束」として、札束を見るような目で見ていたのではないだろうか。でも、一絡げで見ていたそのリストの向こう側には、一つひとつの会社名のあちら側には、そこで働く一人ひとりの人たちがおられる。その仕事に自分や大切な人たちの未来を背負いながら、今日も働く人たちの人生がある。

その人たち一人ひとりに対して、今自分のできることでお手伝いをしたい。
これがすべての出発点だったはずだ。

101回目のプロポーズ

子どものころ、「101回目のプロポーズ」という連続ドラマを見た。
「99人もの女性にフラれるなんて、武田鉄矢、ダサいよね」
当時、バブル期の価値観にどっぷりつかって育った生意気盛りのガキんちょに、武田鉄矢さん扮する「星野達郎」の魅力など、わかるはずもなかった。

でも、今考えると、武田さん、いや星野さんってすごくない?って。
こちらはただ営業メールを送って返事がないだけ。別に相手から面と向かって罵倒とかをされるわけでもない。それでもそれなりに落ち込んでいたというのに。

ましてや「プロポーズ」。自分のありったけの思いを勇気を振り絞って相手につたえたあげく、おそらく本人から面と向かって(まだメールなどない時代)断られてしまう。自分を全否定されてしまう。

それでもまた立ち直って別の人を好きになれるって、メンタリティーがすごくない? 

でも、多分武田さんは、はじめから100人にプロポーズしようなんて、さらさら考えていなかったはずだ。

常に目の前にいる一人の女性に向かって、
「この人と人生を共にしたい」
「この人は、わたしが心から愛する世界でたった一人の女性だ」

と心から信じ切って、そして熱い想いを伝え続けた。

結果的に、これを100回繰り返すことになったのだけれども。

だからおそらく営業も、最初から100人にメッセージを送ることがゴールじゃない。今、目の前にいるたった一人の人に、今自分ができるありったけの思いを込めて提案する。相手に寄り添って、自分にできることを考え抜く。ただ、それだけのことだ。

おわりに

最近、娘はわたしの母校と同じ大学に行きたいと言い出した。今の成績では一体どうなるのだろうかと不安がないこともないが、それでも娘の夢は全力で応援したい。

だから、ママは仕事を頑張る。目の前の一人の人に、ありったけの思いを込めてメールを送る。それで足りなければ、さらに200件、300件とやってみる。

あの日、わたしに勇気をくれた娘の夢を、そしてこれからの自分の人生を、ありったけの思いを込めて、この仕事で切り開いていきたいから。


追記


この営業活動がご縁となり、執筆させていただいた記事が先日公開されました!
「とにかく行動すること」の大切さを学ばせてくれた、記念すべきお仕事となりました。


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