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さよならlady

「お腹すいた」
もう何度目だろう。そう呟いて、辺りを見渡す。
ここがどこかもよく解からないが、そんなことはどうでもよかった。
《サンドラ》
急にそう呼ばれた気がして、振り返るが誰もいない。呆れたため息。
でも後ろからすうっと細い手が手招きしている。
退屈だしそれもいいだろう。そう思って後をついて行くと、花束を渡された。
《どうするかは君に任せるよ》
それだけ言われて、後は一人残される。
綺麗な花束はこちらを見上げている。花びらをつついたりしてつまんだ。
ぷちりと音を立ててちぎれてしまった。
「もういいかあ」
ちぎれた花びらを口に含む。ほんのり甘い。
《食べちゃうのか》
「お腹すいたの」
《それでいいのかい》
「どうするかは私に任せるって言ったでしょ?」
その返事は無かった。気にせずむしゃむしゃと食べる。
綺麗でほんのり甘い味のする花。
観賞用にするには似合わないと思った。
見てくれだけの、憎たらしい花だから。
「まずいわあ」
笑って咀嚼する。些細な仕返しのつもりだった。
でもお腹は満たされたから良しとしよう。
全て平らげ、手を合わせる
「…ごちそうさま」
これからどうしようかな。
でもやっぱり楽しかったから
まだやりたい事もいっぱいあったから、

…もし、また世界がわたしを許してくれるなら。

するとまたあの手は黙ってこちらを向いていた。
「貴方もついて来てくれる?」
何も言わずにその腕は私の手を取る。
私は飛び込んだ。サンドラはいなくなった。


追記:この小説の解説を書きました→https://note.com/hotokes_ear/n/n1b5b300f31c5

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