きっかけ

その名はワイズガード家の父が教えてくれた人だった。
昔、どんな時も仲間を思いやり勇気づけ、友を思って死んでいった元軍人であり英雄。
父は、僕が六歳の時に戦場で死んだ。
でも父が教えてくれたこの人のことははっきりと覚えていたのだ。
父は古い本のあるページの右上に写る小さな写真を指さす。
「この人はアーロン大佐だ。素晴らしい英雄なんだぞ」
「えいゆう?」
「そうさ。…ヒーローだよ」
たった一言の単純な言葉に、幼い僕は一瞬で心が躍ったのをまだ覚えている。

あまりたくさん教われないまま、父はいなくなった。
その少ない記憶の中で、彼は印象深かったのだろう。そして多分、
僕にとって彼は父の代わりでもあったのかもしれない。

やがて僕は父と同じ軍人になった。そして入ってすぐに母が死んでしまった。
僕には兄弟がいなかった。そんな中足音は聞こえていたのだ。
「父さん」
「母さん」
どちらを呼んでも、聞こえるはずが無かった。そして思ったのだ。
もし僕が死んだら誰が泣いてくれるのだろう。
足音は聞こえ、友人とけらけら笑えるはずも無い。
(…誰かいないの)
そう思うと、頭の中で誰かが浮かび上がってきた。
昔からよく知っている人物。ただその肌は灰色だった。

僕は心の中で英雄を呼んだ。
(アーロン…)

それが、僕と彼の初対面だった。

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