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お城を追放されたのでアウトサイダーたちの姫になろうとした

私が生まれた日は雪が降っていたそうだ。白い雪。だからみんなは私のことを白雪姫って呼ぶ。

その雪は本当は本物の雪ではなくて、大きな爆弾が爆発して、舞い上がった塵が落ちてきたものだったみたい。塵には体に悪いものがたくさん入っていたから、お母様は私を産んですぐに死んでしまった。だから私が覚えているお母様は一緒に雪を見上げていた時のぬくもりだけ。

それが私の最初の記憶。

雪がちらちらと降ってくるのを見上げていた記憶。

それともこれはあんまりみんなが雪の話をするから、それを覚えている気がするだけ?

でも私がお母様のお腹の中にいた時、お母様は数十年ぶりに降った雪を見上げていたというから、その記憶が私の中にあってもおかしくないんじゃないかな、と思う。

「この人が新しいお母様だよ」

お父様が知らない女の人を連れてきたのは去年のこと。綺麗で優しそうな人。

「よろしくね」

と差し出された手を私はおずおずと握った。


今、その手は大きな銃を握って私に向けている。

「それじゃあね、白雪。もう戻ってくるんじゃないよ」

「いいえ、お義母様。必ず堂々と帰ってきますから」

「それは楽しみだね」

心温まる母娘の会話。

計算する。お義母様を殴り倒してお城に戻る手段。

砦の裏門。手早くやれば誰にも見られずにできるだろう。痕跡は近くに捨てればいい。

やめておく。

お義母様の後ろに控えるクサハラ。邪魔をしないように、さりげなく立っているけれども、腰の後ろに吊ったマス(釘バットの釘の頭を落として削ったもの)をすぐ抜けるように構えている。お義母様と同時に相手にするのは少しだけ歩が悪い。

それに、そんなことをしたらお父様に怒られてしまう。

だから私はにっこりと優雅に微笑んで別れを告げる。

「また会う日まで、お元気で」

「あなたもせいぜいがんばりなさい」

お義母様はおざなりに手を振り、扉を閉める。続いて鍵の閉まる音。

仕方がない。私は砦に背を向け歩きだした。

せめて、今夜の寝る場所を探そう。


◆◆◆

マントに顔を埋めて町を歩く。私の顔を知っている人もいるだろう。助けてくれる人も。

でも助けてくれた人が本当に親切で助けてくれるのか、命を奪おうとして助けてくれるのかはわからない。本当に信用できるのは

「やあ、お姉さん」

声をかけられて振り替える。目線を少し下げると小柄な人影が立っていた。

「荷物、置いていきなよ」

「あらありがとう、でもこのくらい自分でもてますよ」

「そうじゃなくてさ」

ざりっと足音。人影の後ろにさらに二人、やっぱり、小柄な影が現れる。

「身ぐるみ置いてけば、命はとらないからさ」

背後をちらりと見る。いつの間にか人気のない狭い路地裏に足を踏み入れていたみたいだ。

「逃げられはしないよ」

人陰が言うと背後の物陰からさらに新手が現れる。やけに大きな影と輪をかけて小さな影、それとその中間くらいの影だ。

組織立ったならず者たち。

逃げるのは少し面倒くさそうだ。

「ごめんなさいね、この荷物お母様の形見なの。そうでなければ譲って上げたんだけど」

「そうかい、それじゃあ……」

ならず者たちが身構える。

「お母さんに会わせてやるよ!」

叫びと共にならず者たちは一斉に飛びかかってきた。

なかなかの連携だった。ほぼほぼ同時に取り出した刃物で四肢を狙う。かわしにくいタイミング。

「でも」

少し遅れて突っ込んで来た大きな影の肩を蹴り、高く飛び上がる。それだけで小柄なならず者たちの刃は届かなくなる。

ズルいだろうか? いや、体格の差を活かしたのだ。

「んなこた、知ってるんだよ」

頭上から声が聞こえた。見上げるとやはり小柄な黒ずくめが空から落ちてきている。その手には鋭いナイフ。

小柄な体格で下に意識を引き付けてからの上からの奇襲。気づかれていなければ大きな効果があるだろう。

「私は気づいたけれどもね」

マントの下、腰に提げた鉈を抜き出す。肉厚で頑丈な鉈。お母様の形見。

切っ先の突起で落下するならず者のナイフを絡めとる。そのまま柄と手首で首をロックして地面に放り投げた。

「うわぁ」

鎖鎌と釵を構えていた地上の二人に直撃して三人は絡まりあって倒れる。

私は壁を蹴って地面に向かい、大男の顔に膝を入れる。

「ごぇ!」

男は悲鳴を上げて後ずさる。

「てめえ」

着地を狙って、残った三人が襲い掛かってくる。身を屈めておしゃべり屋の鉄パイプをかわして、ボディに柄打ち。小さなならず者が投げてきたナイフを弾いて中くらいの男へととばす。相手が鉤爪で弾いた隙に距離を詰めて投げる。

「ぐえ!」

小柄なならず者の位置を確かめ、振り返る。

「ま、まいった」

視線が会ったところで、小柄なならず者が叫ぶように言った。

「命だけはお助けを」

面白い話。

この人たちはそう言ってきた人たちをどうしてきたのだろう。

「なんでも、さしあげますから」

地面に這いつくばってならず者は言う。

少し考える。

さっきの連携はゆきずりの仲間でできることではない。きっとずっと一緒にいたのだろう。

少し羨ましい。

だから少しだけ意地悪がしたくなった。

「じゃあ誰か1人の首をちょうだい、そしたら、許してあげる」

「それは」 

「別に誰のでもいいよ。みんな死ぬところが誰か1人が死ぬになるんだからだいぶ優しいと思うけど」

「それは…そうですね」

小柄なならず者はそう言うとためらいなくナイフを自分の首に当てた。

「それじゃあみんなよろしく」

「まて」

声をかけたのは空から落ちてきたならず者だった。こちらもナイフを首に当てている。

そいつだけじゃない。他の5人もいつの間にか立ち上がり、自分の武器を首に当てている。

それを見て小柄なならず者が笑って言う。

「みんなでいくなら怖くないな」

そしてナイフに力を込める。

「わかったよ」

渋々と私は声を上げた。

「あんたたちの首に価値なんてないから。それを下ろしなさい」

「でも…」

少し考える。こいつらを役立てる方法。

打ち倒した相手なら信用できるかな。

「とりあえず、寝床がほしいんだけど」




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