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マッドパーティードブキュア 3

「あいにく、シュウキョウは間に合ってるよ」
「いえいえ、わたくしたち正黄金律教会は宗教団体ではございません」
 にこやかな笑顔で男は応える。女神の不機嫌は男になんの影響も与えていないように見えた。
「ただ、歪み切ったこの街を正しい姿に戻して差し上げようとここに街にまいった次第です」
「なるほど」
 女神は興味なさげな口調で相槌を打つ。伸びをしながら寝返りを打つ。少女と男の間に転がる位置。少女は女神が男に背を向けながらも、一挙手一投足に注意を払っているのに気がついた。
「まあ、どちらにしろあたしゃあ興味ないね」
「あなたが興味なくても、我々は興味があるのです」
「それじゃあ、おあいにく様だ。他所をあたりな」
「歪みの三要石」
 ぶつりと吐き出された男の言葉に、ぴくりと女神は身構えた。その反応に気が付いているのかいないのか、男は変わらぬ平坦な穏やかさで続ける。
「ご存じのようですね。でしたら話が早い」
「しらねえよ」
「構いませんよ。本人が認識しているかどうかはさほど重要なことではないのです。なにせ……」
 男はにこやかな口調のまま内ポケットに手を入れた。
「排除するという結果は変わりませんから」
 男は懐から手を出したかと思うと、キラキラと輝く粉をあたりにまき散らした。粉は輝きながら薄汚れた橋の下に降りかかった。
 少女は怪訝に思い目を凝らした。次の瞬間、自分が宙を舞っているのに気がついた。短い浮遊感。直後に激しい衝撃。方向感覚の消失。痛みに揺らぐ目を凝らす。滲む視界に女神が見えた。何かを放り投げたフォロースルー。何かを? 少女は自分が投げられたのだと気がつく。
「ギギギグラガアア」
 奇怪な唸り声がした。女神の背後に動くものがあった。混沌を煮詰めたような歪な箱がいた。箱にはねじ曲がった手足が付いている。ねじくれた手が女神の腕をつかむ。箱が開いた。
 女神が少女の顔を見た。女神の口が動く。
「それ、役に立てておくれ」

【つづく】

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