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マッドパーティードブキュア 102

「それで、あっしらには何をしてほしいんでやすか?」
 姿勢を正して、ズウラは尋ねる。影は首を振って答えた。愉快そうな調子で影の濃淡が変化する。
「今のところは、なにも」
 怪訝な顔をする一同の顔を見渡して、おどけた調子で続ける。
「肩の力を抜いてください。しばらくはここでのんびりとしていてもらえれば大丈夫です。ただ、またやつが現れた時」
 影はそこで少し言葉を切る。改めて一同の顔を見渡す。そこにはもうおどけた色はない。
「しっかりと仕留めて頂ければ」
「ああ、わかった。まかしとけ」
 マラキイが答えた。その横顔をズウラはそっと振り返る。表情にためらいはない。もう決めたことだからだ。それがマラキイだ。ズウラはよく知っていた。
「では、ごゆっくり。お支払いのことはお気になさらず。店主に話をつけておきますから」
 軽く会釈をして、影は去っていった。
 ズウラは反対の席に座るテツノとメンチの顔を盗み見る。二人とも黙り込んでいるが、その表情は対照的だった。
 メンチはどこか不満そうな顔をしている。納得してはいないようだった。自分の力を利用されているとおもっているのかもしれない。なにかしら説得をする必要があるだろうと思う。彼女の力は必要だ。影のいう言葉に嘘がないのならば、その時間は十分にあるようだから。
 テツノはマラキイと似た表情をしている。違うのはより士気が高そうな様子をしていることだ。
 奇妙な性格をしていると思う。しばらく行動を共にしてズウラはその珍しい性質に気がついた。テツノという少女はしばしば他人のために行動を起こす。この街ではかなり珍しい性質だ。自分のために持てる全てのリソースを裂かずに生き残るのは容易いことではない。それができるのはリソースを有り余るほど持つ強者だけだ。
 例えば、マラキイが気まぐれに誰かを助けるのはその有り余る暴の力によるものだ。
 けれども、とズウラは改めてテツノの横顔を見つめた。

【つづく】


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