マッドパーティードブキュア 32
「手数料? どのくらいになるのですか?」
「そんな目で見ないでくださいよ。仕方がないでしょう? こちらも慈善事業ではやってけないんですから」
メンチの油断ならない目つきを、イェ村はわざとらしく怯える様子で躱した。
「メンチさん、まあ、話くらい聞こうや」
マラキイがなだめる。メンチは舌打ちを一つして頷いた。
「そんなに高額というわけじゃないんですよ。家賃の半年分だけですから」
「ドブ券だと600ってことかい?」
「ええ、追われてるんでしょう? せめてそのくらいはもらいたいですね。保証金も兼ねて」
ドブ券600枚。怪我人を抱えた今の状況ではなかなか厳しい額になる。メンチはマラキイに目線をやる。マラキイはさりげなく首を振る。ため息を一つ。メンチはぐっと、身体を乗り出して尋ねた。
「まからない?」
じっと、イェ村の目を見つめる。
しばしの沈黙。今度ため息をついたのはイェ村の方だった。
「それじゃあ、当社特別プランはいかがですか?」
「なんだ? それ」
「いえ、あなたたちみたいな、あーお金をすぐご用意できない方のためのプランです」
「何をしろと?」
「大変なことではないですよ。我々の一員になっていただければよいのです」
「手前らの狗になれってことかい?」
「とんでもない」
驚いた調子で、イェ村は続ける。
「そんな不確定なことはしませんとも、あなたは今我々ではない、その一部を分けて頂くだけでよいのです。それだけで手数料は結構ですよ」
イェ村はにっこりと笑う。屈託のない笑顔。メンチはどこか危険を感じた。でも、それほど危険なことか? 一部を貸すだけ。それで安全が確保できるなら。
「あの、すみません」
思考は入り込んできたセエジの声に妨害された。店の前でテツノたちの様子を見張らせていた。
「どうした?」
「少し水をいただけませんか? ズウラさんが飲みたがっていて」
「おやおやおや」
セエジの顔を見たイェ村が笑みを作って呟いた。
【つづく】
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