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マッドパーティードブキュア 35

「なあ、あんたは何者なんだい?」
 メンチは差し出されたセエジの手を見つめて尋ねた。
「そういうあなたは?」
 問い返されて答えに詰まる。
「自分が何者かを答えられる人はこの街には少ないでしょう」
「ああ」
 渋々頷いてしまう。出会って間もない相手に自分の情報を開示しようとは思わない。
「誰かに狙われてるなら、言っておいてくれよ」
 マラキイが廃材を部屋の隅に押し込めながら口を挟んだ。
「別にお前さんが何者だろうと、俺は気にしないよ。それなりに『交渉事』が得意みたいだしな。特技のあるやつが近くにいるってのはいいことさ」
 ちらりとセエジの手元に目線をやって、マラキイは続ける。
「ただ、お前さんが何かに狙われてるってんなら別だ。そいつへの対処を考える意味じゃあ、話しておいてくれた方がいろいろとスムーズなんだけどな」
「おや、僕が狙われているというのですか?」
「俺らが会った時のあの獣、混沌獣とか言ったか? あれは偶然あそこにいたのかな」
 いつの間にか、マラキイは作業する手を止め、二人の方に向き直っていた。じっとセエジの目を見つめる。
「ええ、偶然でしょう」
 あっさりと、セエジは答えた。
「それならいいんだけどな」
「それとも」
 頷いたマラキイにセエジが口を開く。
「ほかに何か原因があるのかもしれませけれども」
 視線の先には少女の姿になった女神が寝息を立てている。
「お前さんに会った時にはいなかったぜ」
「ああ、そうでしたっけ?」
「まあ、いいさ。面倒ごとがあるなら先に言っといてくれってことさ。そっちの姉ちゃんもな」
 マラキイはそう言ってメンチに声をかけた。メンチはびくりと、反応して腰に提げた小斧を握りしめた。
「私はなんもねえよ」
「そうか、それならいいんだけどよ」
 片眉をわずかに上げてから、マラキイは立ち上がり、セエジとメンチの方に歩いてくる。手を差し出しながら言葉を続ける。
「まあ、とりあえずよろしくとは言っとくぜ」

【つづく】

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