マッドパーティードブキュア 347
身の内に取り込んだ、黄金の腕の知識がマラキイに告げてくる。
まだ終わってはいない。
「まさか、ラゲドがまだ生きているのか?」
「いいや」
マラキイは首を振る。ラゲドは倒した。その骸は今も少し離れたところに横たわっている。それはたしかにラゲドの亡骸だ。影武者などではない。
骸は一瞬ごとに姿を変える玉虫色の空を見上げていた。
そこにはもう輝く方陣はない。ただいくつか空いた穴から美しい青空が覗いているだけだ。その穴も輪郭はおぼろになりつつある。そのうち混沌が空にあいた穴を塞いでしまうだろう。
だが、問題はその穴から見える青空だった。マラキイは穴を睨んだ。
「あの穴はどこに繋がってると思う?」
「それは……外だろう?」
「外ってどこだよ」
「だから、ドブヶ丘だろ」
メンチが首を傾げながら答える。マラキイは頷く。
この切り離された地区はドブヶ丘の中に存在する。あの穴はメンチが境界を切り拓いて向こうに戻ったのと同じように、境界に開けられた穴のように見えた。
「お前、ドブヶ丘であんな青空見たことあるか?」
「あ!」
メンチが驚きの声を上げる。
ドブヶ丘は年中どんよりとした曇天で、青空が見えることはない。極稀に見える青空はたいてい危険生物の擬態だ。だが、今見えているあの青空は歪みのないきれいな空だった。そのような空はドブヶ丘にはありえない。見えているのはたしかにドブヶ丘の空だというのに。そう認識できるのに。ならば、それは異常だ。
「つまり、どういうことだよ」
「ドブヶ丘の街になにかまずいことが起きてるってことですか?」
「ああ、そういうことだ」
マラキイは頷く。まずいことが起きている。それもかなりまずいことが。
「メンチ」
混乱して目を白黒させているメンチを落ち着かせようと、マラキイはメンチの肩に手をおいた。メンチが見返してくる。
「あたしは何をすればいいんだ?」
マラキイは頷いて答えた。
「街への道を拓けるか?」
【つづく】
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