西方高校魔道部物語


春霞を透かして輝く太陽が、手の上のコインに鈍く反射している。それを見つめながら相田アカネはここ数分で何度目かの自問を繰り返した。

どうしてこんなことに。
「おい、とっとと始めてくれよ」
「てめえ、レフェリー急かしてんじゃねえ」
彼女の前には、にらみ合う少女が二人。
「相田さんのタイミングでいいからね」
相手から視線を外さないまま、アカネに声をかけるのは霧灯ムツキ。ゆらりと立った自然体、真新しい制服に身を包み、右手には簡素な御幣を提げている。
「はっ、始まるのが遅けりゃ、その分、長生きできるからな」
対峙する少女は、入学初日というのに校則違反ぎりぎりの服装だ。動物を思わせる仮面に、羽の髪飾り、ぞろりとした上着には黄色と黒の縞があしらわれている。両手に握る二振りの色鮮やかな装飾の短刀がムツキを狙う。
「殺す? 古臭いシャーマン式が?」
「おギョーギのいい教科書ちゃんじゃむりだろうね」
ムツキが鼻で笑い、獣面の少女が嘲笑で返す。二人の間に流れる空気は一段冷たくなる。
―ええい、ままよ
緊張感に耐えかね、アカネはコインをほうった。
コインが宙を舞い、地面に落ちる。
刹那、獣面の少女が消えた。
「クソのろまが!」
声を視線で追う、ムツキの後方に巨大な獣がいた。虎と兎と鳥を合わせたような奇妙な獣だ。その口には引き破られた制服の袖が引っ掛かっている。
「てめえ、新品の制服をよぉ」
舌打ちをして、ムツキが振り返る。その制服の袖は大きく破れていた。
「恨むなら自分のトロさを……な!? がっ!」
言葉を切り、獣は驚愕に目を見開く。その耳、目、口から血があふれ出ている。
「え、いったい何が?」
アカネは事態を呑み込めず、二人を交互に見ることしかできない。
「ケモノ憑きに呪詛返しか。なかなかやるじゃない。あの二人、一年生?」
突然声を掛けられ、アカネは振り向く。一人の女生徒が立っている。タイの色は臙脂、二年生だ。
「入学早々、元気だねえ」

【続く】

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