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マッドパーティードブキュア 254


 メンチの声が河原に響き渡った。
「なにっ!?」
 ドブパックがバッと振り返る。そこにはなにもいない。
「くそっ」
 舌打ちをしたドブパックがメンチに向き直ろうとする。一瞬、球体の発射が遅れる。その隙にメンチは最後の一歩の距離を詰める。振り上げた斧をドブパックに叩き付ける。
 ドブパックが腕で身体をかばう。袖についたひだが斧を受け止める。布とは思えない頑強な手応え。だが
「それなら切れるなあ!」
 斧はゆっくりと布にくい込んでいく。球体とは違う、同種の力を感じた。正体のわかっている力なら、この力ならば斧の刃はたつ。
「なめるな!」
 ドブパックが叫ぶ。袖口から、服の裾から、小振りな球体が現れる。ゆっくりとドブパックと組み合うメンチの背後に周りこむ。
「ぎええええ」
 控えめな叫び声がメンチの背中を焼く。メンチは歯を食いしばり、痛みを無視する。まだだ、もう少しで。
「しつこい子だね!」
 這い寄る球体が増える。だが
 遠くでパァンという乾いた音が響いた。
「え?」
 ドブパックが驚きの声を漏らした。メンチにまとわりついていた球体が、輪郭を失い雲散霧消する。
「てめえ、なにしやがった」
 初めて、ドブパックの声に動揺が宿る。
 ぱぁん
 再び乾いた破裂音が響く。
 ドブパックの衣装の豊かな膨らみが急速に萎んでいく。
 ざわめきが起こった。遠くだ。メンチはざわめきの起きたあたりに目線を移す。ドブパックの腕はかろうじてメンチの斧の重さを受け止めるだけになっていて、いまでは視線をよそに向ける余裕さえできていた。
 ふい、と斧を持ち上げる。
「なんのつもりだ?」
「勝負はついただろう」
 訝しげなドブパックにメンチは努めて冷静な目を向けながら言った。
 ざわめきはだんだん大きくなる。戸惑い、混乱した人々の声だった。
 ゆっくりとドブパックが振り返る。ざわめきのもとは少し離れた棲家の中だった。
 はらり、と棲家を覆うブルーシートが剥がれ落ちた。

【つづく】

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