マッドパーティードブキュア 157
「誰かいたのか?」
メンチは尋ねる。コップの中の液体はまだ温かく、湯気が立っている。
「ああ」
メンチの視線の先に目をやったマラキイは頷いて口ごもる。珍しく歯切れが悪い。
「なんだよ」
「誰かいた、というか、なんというかでやすね」
ズウラが言葉を引き継ぐ。こちらもやけに歯切れが悪い。
「なんなんだよ」
二人のはっきりしない物言いにメンチの胸の内に苛立ちが生じる。
「なにか言いづらい人がいたとか?」
「まあ」
テツノの問いかけにズウラが頷く。頷いてからズウラは窓の外に目をやった。つられてテツノも店の外を見る。
「ぐごおおおん!」
「おごおおおお!」
遠くから獣の声が聞こえた。二つの声が絡み合っている。
「出たか」
メンチは斧を手にして立ち上がった。
「いや、あれは大丈夫でやすよ」
「あ?」
ズウラがメンチを抑えるよう手を伸ばした。獣の叫び声はなおも続いている。間違いなくあの危険な獣の声だ。それも一匹だけではない。この店まで来てしまったら相当の被害が出てしまうだろう。
「なんでだよ。早く行かないと」
「大丈夫、らしい。見てみな」
苦虫を噛み潰した顔でマラキイは窓の外を指さした。ぼんやりとした霞の向こうに獣の影が見えた。巨大な影はやはり二つに見える。
「2匹いるじゃないか」
「ああ、だから大丈夫なんだよ。よく見てみろ」
二つの獣の影は声と同じように絡み合っているようだった。羽の生えた蛇のような獣と、角と棘の生えたトカゲのような獣だ。
「なんだ? あれは」
獣たちは絡み合い、互いに締め付けあっている。互いの爪を、牙を、鱗を、相手に叩きつけ、食い込ませあっている。その度に悲痛な叫び声が上がる。
「獣同士が、戦ってる?」
「あそこの、岩の陰を見てみてほしいでやす」
ズウラが遠くの岩を指差す。メンチは指のさす先を見た。ずわりと体中の血液が沸騰する。その岩の陰に隠れて獣たちの様子を見ているのは
「あいつら、生きてやがったのか」
【つづく】
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