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コッペリアの末裔

走る。走る。

逃げ込んだ廃墟はかつて研究施設だったらしい。床の記号に解読ソフトは『判別不能』と返す。問題ない。今は何を探っていたかよりも、私が隠れる何かが重要。
長い廊下を走る。走る。
後方からアンドロイド狩りの叫び声。
「待て! 人モドキ!」
視界にアラート。駆動部の限界が近い。
角を曲がる。視界の端に扉。倉庫? 袋小路の可能性。隠れきれるか?
足音が迫る。
計算。決定。
部屋に飛び込み、物陰に隠れる。静止。
廊下を駆け抜けていく足音。
戻ってくるだろうか? 部屋の奥を探る。
ガラクタに埋もれ、床に穴があった。覗くとスキャンの果てまで梯子が続く。

穴の先は奇妙な空間だった。
床に繊維質の敷物が長方形に区切られて敷き詰められている。その数は十二。四方は紙と木材でできたスライド式の仕切りで囲われている。
仕切りを一つ開けると、同じ空間が広がっていた。
新しい空間に入り、後ろの仕切りを占める。
正面の仕切りを開け、閉める。やはり同じ空間。
仕切りを開け、移動し、閉める。
仕切りを開け、移動し、閉める。
46回の繰り返し。

同じだけ引き返しても、元の場所に戻れない。そんな不合理な想定が浮かぶ。
64回の繰り返し。
マイクが何かの音を拾う。
向きを変える。
28回の繰り返し。
近づいている。ノイズまみれの、録音? 音楽、話し声、それに生物の声? 検索は『該当なし』。
仕切りを開ける。37回目。

その空間は違った。
正面の仕切りに映像が映し出されていた。大きな生物が吠え、建物を崩す。
空間の中央に古い投影機。
その隣に一人の少女が座っている。
彼女を私は知っている。 知っている? どうして?
「おかえり、博士」
少女が振り向く。
それは私と同じ顔。
少女が目を見開く。器を落とす。小さく白い球が散らばる。
画面の中、生物が火を噴く。咆哮が響く。
やがて少女がいらっしゃいと微笑んだ。
「あんたは私の曾孫か玄孫かその先か」
ああ、そうだ。
「あなたはオリジナル」

【続く】

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