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ラブホテルで働き始めたきっかけと、働いてみて思ったこと

■ 父の自己破産と親子関係の崩壊

15年ほど前、私は東京で芸能関係の仕事をしていました。ある日、父から「自己破産することになった」と突然連絡を受けます。原因は兄との金銭トラブルでした。

兄は本業の合間に父の事業を手伝い、多額の融資返済を引き受けていましたが、結婚の話で父と対立しました。兄には結婚を急ぐ事情があった一方、父は融資の返済を優先すべきと考え、急ぐ姿勢に反対します。この対立が深まり、兄は父との関係を断ち、彼女の家に婿入りすることになりました。

その結果、融資の返済が滞り、兄とも連絡が途絶えました。父はやむを得ず兄を訴えましたが、裁判では母が兄とのやり取りを記録した携帯電話を証拠として提出します。これにより兄は「母に裏切られた」と感じ、両親との関係が完全に決裂しました。

その後、父は自己破産し、実家は競売にかけられました。両親は東京に移りましたが、今後は何があっても兄に頼ることはできません。そのため、私は芸能よりも安定した仕事へ転職することを考えました。

■ ラブホテルへの転職

転職とはいったものの、特にやりたいことは決まっていませんでした。まず転職サイトに登録し、何気なく眺めていると偶然、深夜勤務のラブホテルの求人を見つけました。

家から近く通勤も便利で土地勘もあったため、その独特な世界観や仕事内容に魅力を感じて応募してみることに。面接はすぐに本社で行われ、1〜2日ほどで採用が決まりました。

勤務地は風俗店が立ち並ぶ歓楽街の一角です。こうしてラブホテルでの勤務が始まりました。

■ 深夜のラブホテルの裏側

深夜のラブホテルでは、日常では経験できない出来事が次々と起こります。客室から注射器が見つかることもあれば、全裸で外に飛び出していった女性を慌てて追いかけることもありました。

特に印象に残っているのは、殺人事件が発生したときのことです。ニュースにもなり、この地域全体に大きな衝撃を与えました。マスコミが殺到し、さらに嫌がらせ電話にも対応しなければなりませんでした。

10年以上経った今でも、その出来事は鮮明に記憶しています。この事件は「決して繰り返してはいけない」という教訓として、心に刻まれています。

さらに、夜が更けるにつれて問題も増加します。歓楽街特有の治安の悪さが影響し、酔客による騒ぎや性犯罪、窃盗、詐欺などが相次ぎ、警察が出動する場面も度々見られました。

しかし、こうしたトラブルがありながらも、深夜ならではの人との出会いも増えていきます。常連の風俗嬢や街を徘徊する立ちんぼの女性たちとの交流が深まり、飲み物などの差し入れをもらうこともありました。個性的な男性たちの話し相手になる機会も多く、日中とは異なる深夜の人間関係にはどこか面白さを感じました。

■ 振り返り、今思うこと

振り返ると、父の自己破産と兄がいなくなったことが私の人生を大きく変えたきっかけでした。あの出来事がなければ、今とは全く異なる人生を歩んでいたと思います。それが良いことだったかどうかは分かりませんが、当時の私はまだ芸能の世界に未練を残していました。

何年も続けていた日本舞踊を辞め、その後しばらく映画や小説からも距離を置いていました。しかしホテルで働き始め、想像もしなかった出来事に遭遇する日々の中で、その気持ちも次第に薄れていきました。

様々な経験を通じ、やっぱり自分は非日常的な世界で生きるのが好きなんだということを実感しています。

なお、両親のその後ですが、競売にかけられた実家には、結局買い手がつきませんでした。母方の本家が絡む複雑な名義のため、買い手が見つかることは難しいと判断されたようです。

そのため、現在は実家に戻り、穏やかに暮らしています。


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