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湖のほとりのリノベーション美術館〜市原湖畔美術館(千葉)〜たてものばなし

ダム湖である高滝湖畔を臨む位置にあるというロケーション抜群の美術館に行ってきました。ずっと行きたかったのですが、木更津から車で30分くらいという絶妙な場所にあるので、

リノベーションされた建築空間も、中の展示作品(23年12月は青木野枝さんの特別展)も素晴らしく、天気が良い日にぴったりの素敵な美術館でした。

建築概要

設計:有設計室(現・カワグチテイ建築計画)(川口有子、鄭仁愉)
構造設計:長谷川大輔構造計画
設備設計:ZO設計室
施工:山内工業株式会社
竣工:2013年

工事単価:23.9万円/m2(延べ面積ベース)

マップ:

出典:市原湖畔美術館公式HP

市原湖畔美術館とは

1995年に開館した観光・文化施設「市原市水と彫刻の丘」のリニューアルにより、市原市の市制施行50周年を記念して2013年に誕生しました。

出典:日本建築学会

高滝湖のほとりに建つ、自然豊かな美術館で、屋上を使った永久展示はもちろん、湖の中や広場にもたくさんの作品があり、湖全体がアートと共に寛ぎの時間を過ごせるようになっています。

市原湖畔美術館は、5つのコンセプトのもとに展覧会やイベントを企画しています。

1.「世界をどう把握するか」というテーマを背景にした企画
2.海外のアーティストの招聘や文化機関との協働による、国際性を持った企画
3.新しい表現やアートの提示を試みた企画
4.地域に根ざした企画
5.子どもも楽しめる企画

建築の特徴

リノベーションのコンペ形式で選ばれた

当時はめずらしかったリノベーションのプロポーザルコンペを実施(審査委員長:伊東豊雄)、231件の応募の中から有設計室(現・カワグチテイ建築計画)が選ばれました。

バブルの遺構のように持て余されていた建物の隠れた魅力を発見し、古いものと新しいもの、周辺の豊かな環境、その中でのアート作品や活動を一体的に楽しめる場所として再生することを目指しました。

出典:カワグチテイ建築計画

既存の構造体はそのままに再生

既存建物の仕上材をすべて剥がしてコンクリートの構造体だけを残し、そこにアートウォールと名付けたスチール折板の新しい壁を縫うように挿入して、展示室やラウンジ、ホールなどをつくりだしています。

アートウォール(スチール折板)

無機質なコンクリートとカラーガラスの鮮やかなコントラスト

この建築は、上述の亜鉛メッキの鉄板と、既存建物の仕上げ材を剥がしたままのコンクリートで基本的に構成されており、シンプルで無機質です。

しかし、カラフルな椅子や、下のようなカラーガラスをエントランスに用いることで、無機質なだけではないアクセントが生まれています。

展示作品の邪魔にならないシンプルさと共に、開放的・交流といったこの美術館のテーマにあった遊び心が感じられます。

私たちがこのエントランスボックスに求めたのは、無機質な印象になりがちな空間の中で「華やぎ」を創出することです。そこで、壁面にカラーガラスを採用するとともに什器にもカラーガラスを用い、その透明感あふれる色味と周辺環境を映し込む反射性がもたらす深みによって、あたかもボックス全体が光を放っているような空間を実現しようと考えました。

コンクリートに映える赤いガラスのレセプション

内外がつながりランダム性のある内部空間

入ってまず目を惹くのは、天井の空いた空間に展示されている「Heigh-Ho」です。
元々あったガラス屋根を撤去し,厚さ 6mm の 鉄板庇をかけ、ぽっかりと空が空くように作られています。

「Heigh-Ho」

また、地下一階と一階も大きな吹き抜けで繋がっており、この時は青木野枝氏の作品が天井まで目一杯使われており、空につながる感じがとてもマッチしていました。

地下1階より
1階より

細かなところまでロゴと同じフォントで統一する拘り

これは建築という枠組みに入れていいのか微妙なところではありますが、私が楽しくなったポイントの一つだったので書かせていただきます。

美術館のロゴに使用されているフォントで、駐車場から入り口への誘導も、授乳室や搬入口の表記も統一されていたのです。

トイレの表示など館内の統一はよくありますが、外まで統一されていることで、「美術館」空間をついた時から感じることができて楽しかったです。変に事務的な感じや日常感を抱かないというか。

駐車場から美術館への誘導
授乳室の案内
搬入口

地域連携も頑張っている

市原市が取り組むアートを基軸に据えた地域活性化構想の一環として、発信性をもち、かつ地域振興の拠点となる美術館として再生することが求められているということもあり、
市原湖畔美術館では様々な工夫をしています。

①美術館前の芝生広場
美術館前の芝生広場でテントやパラソルを広げて自然を満喫する「ピクニックDAY」やアーティストを招いたワークショップなどを行っています。
改修前は、湖側の芝生広場へ行くには入場料を払って館内を通過する必要があったのですが、改修後は誰でも無料で入れるスペースとなりました。

②多目的ホールの活用
多目的ホールの大型折戸を開放し、内外を一体的に使うことが出来ます
私が行った日は、お正月飾りのようなものを作るワークショップをしていて、芝生広場からその様子を伺うことができました。

③併設のレストランでの地元食材の使用
併設のレストランの料理は、メニューを見るとほとんどが千葉県産の食材を使用しています。地産地消、そして千葉の食材の美味しさを知ってもらうことにもつながります。

出典:カワグチテイ建築計画

建築家川口有子、鄭仁愉の考え方

カワグチテイ建築計画は川口有子(かわぐち・なおこ)と鄭仁愉(てい・じんゆ)の2名の建築家による一級建築士事務所です。

出典:CLASS 1 ARCHITECT

経歴

川口有子
1974年 千葉県生まれ
1997年 東京工業大学工学部建築学科卒業後、山本理顕設計工場に入社
2005年 有設計室設立
2014年 株式会社カワグチテイ建築計画 代表取締役
2016-2018年 武蔵野美術大学非常勤講師
2018年 東京電機大学非常勤講師

1978年 千葉県生まれ
2001年 千葉大学工学部建築学科卒業
2003年 千葉大学大学院自然科学研究科修了後、山本理顕設計工場に入社
2005年 有設計室 パートナー
2014年 株式会社カワグチテイ建築計画 代表取締役
2017年 東京理科大学非常勤講師

代表作品

美波町医療保健センター(徳島県)

出典:新建築

新浜町団地県営住宅2号棟(徳島県)

出典:カワグチテイ建築計画

利用方法

開館時間・観覧料

開館時間:平日10:00 - 17:00 土・祝前日9:30 - 19:00 日・祝9:30 - 18:00
休館日:月曜日[祝日の場合は翌平日]、年末年始、メンテナンス休館
参考:市原湖畔美術館 公式HP

チケット購入方法・予約方法

観覧料:一般:1,000円 / 大高生・65 歳以上:800円(企画展により異なる、企画展とのセット販売のみ)
※支払いは現金のみ

感想

湖畔の環境、そして地域の方々との交流まで含めて計画・設計・運営されていることがよくわかる美術館です。
ゆっくりと流れる時間の中で存分に作品を楽しめました。

偶然、小豆島で作品を拝見したことのあった青木野枝さんの特別企画中に行くことができて嬉しかったです。
外の環境を取り込んだこうした美術館は、ロケーションと作品がマッチするととても相乗効果があって良いですね。

また気になる企画展がある時に行きたいです。

併設レストラン
サービスで美味しいピクルスをいただきました


参考:
日本建築学会
日経クロステック, 「改修プロポで再生、市原湖畔美術館がオープン」, 2013年8月https://class1.jp/architect/detail/16232/
カワグチテイ建築計画 公式HP
https://kawaguchi-tei.jp/project/project-ILM.html



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