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Episode 634 分かりやすさが欲しいのです。

2022年8月8日にツイッターの音声SNS「スペース」上で展開された配信が話題になりました。
「脳波やfMRIでADHDが診断出来るみたいな情報が巷に溢れ始めた危機感」
が発端の「発達障害の『診断』と『脳』について医師、脳科学者、心理士が語り尽くす夜」と題されたこのスペースは、とても興味深い内容だったのです。

脳波やfMRIなどだけでは発達障害の診断はできない…と丁寧に説明する、村中(@naoto_muranaka)先生、井手(@IDEmRes)先生、柏(@psydrk)先生のスペースを聞き、そしてこのスペースの興味の延長線上にある井手先生の「この本」を購入するのです。

恐らく、多くの方がこのスペースをキッカケに購入され、既に多くのレビューが上げられているであろうこの本を、私ごときがレビューする意味はないでしょうから、その点は省略いたしまして…。

この本を読んで、そして思ったことを正直に書きます。

ASDと診断され、自分でもASDであると納得し、自助会やスペースでの対談を通じて自身のものごとの考え方の特徴を自己分析して、
「あぁ、やはり私はASDなのだ」
…と、納得していたのにも拘わらず、井手先生の本に書かれているASDの特徴的な感覚にあてはまる部分が極めて少ないことに「ちょっとガッカリ」している私がいました。

本当はね、「そうそう、そうなんだよ!」ってビンゴを期待していたのですよね…私の持つ感覚を誰かに話しても、なかなか理解してくださる方がいなくて、伝わらないから伝わる方法を探して、ブログでもあれこれ「伝わる方法はないか」と試してみたりして。
そこを「ビシッ!」と科学が解決してくれれば…なんてね。
でも、そうではありませんでした。
それは井手先生が本の中でもスペースでも言っていたことだったのですけどね。

全く以て私の感覚と違う…というワケではありません…それは「掠る」とでも言いましょうか、ストライクではなく、ボールなのです。
でもデットボールになるようなものでもない、読んだ感想を自分の経験に乗せて「これ!」と言えるようなエピソードにヒットしないのですよ。
バッターボックスに立ち、ストライクが来ないモヤモヤ…でしょうかね。
結局フォアボールを選んで出塁…野球ならそれで良いのでしょうけど、私は手が出せる球、「ストライク」が欲しかったのですよ、三振でも良いから。

そんな何とも言えないモヤモヤした気持ちを抱えて、ハッと気づくのです。
このストライクを求める感覚が、あのスペースで話題になった「科学に求める分かりやすい診断の危険性」だったということにね。

診断を受けるとか、診断の有無にかかわらず自助会に参加してみようと思うとか、それは「その後の私」を考えるアクションなんですよね。
だから、その感覚を持ち寄ったもの同士が集まり語らう場所が発生するのは当然の成り行きなのだと思います。
それは発達障害(神経発達症)に限らず、各種の依存症に関する自助会であっても、高IQ者の組織である「MENSA」も、そう言う意味では同じことなのだと思うのです。

ところが、「同じ枠組み」の中では「そうなんだよ」のひと言で片付く「共有された何か」が、枠組みの外には上手く伝わらないことがよくあるのですよ。
それが例え、大好きなパートナーであっても…です。

私のようなASDと診断された人は、その感覚について社会の普通を形成する「定型」と呼ばれる人たちに、その感覚や思考についての「説明/解説」を求められることが多くあります。
「合理的配慮」を求める場面などでもこの「説明/解説」を行うことは必須項目となるワケで、どう言う理由あってその配慮を求めるのか、その結果としてどういう効果が期待できるのか…について、配慮の仕手と受け手で合意する必要があるということです。

ところが「私の感覚や思考」を伝えるという、最初の一歩が、とにかく遠く険しいのです。

個人には個人の持った能力があって、人に伝える能力や技術の個人差は当然あるのですよね。
幸いにも私は、「私の難しいこと」の幾つがは言葉にして伝えることができました。
でもそれが全てではないですし、「上手く伝わらない」を抱えることはやはりストレスになるワケです。
ここに「分かりやすく伝わる方法」が入り込むスキが生まれる…なるほど。

スペースの中で、3人の先生方は「しっかりと時間をかけて個別にあらゆる可能性を考えながら診断や支援をする」ことの重要性を説きます。
特定のひとつの分野で「パン!」と図解され、分かりやすく診断されることはない…と分かっていても、わかりやすい説明を求めてしまう理由は、当事者が抱える「伝わらないストレス」なのかもしれません。

井手先生の本を読んで、その本を手に取る元になったスペースの「警告」が、ブーメランになって飛んできたように思います。
私もまた、いろいろと考えを巡らす良い機会になった…と、改めて思うのです。


冒頭で触れた「スペース」ですが、1ヶ月の視聴可能期間が過ぎてしまうと消去されてしまうようで残念…と思っていたら、それはライターの朗子(@akiko_m_psy)さんによって記事に起こされていました。

追記
スペースの仕様変更により視聴期間が無制限になったので、話題のスペースへのリンクを張り付けておきます。

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