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【ネタバレあり】ジャンプ+読み切り「へのへのもへじと棒人間とパンツ」が令和最強のラブコメディだった件について

上のURLを踏め!!!話はそれからだ!!!



読んだか!?読んでねえのかよ!!まあいい!!解説いくぞ!!


はじめに.「へのへのもへじと棒人間とパンツ」とは

2022年10月12日、アニメ版「チェーンソーマン」の地上波放送開始当日であり、かつ前日には「HUNTER×HUNTER」の連載再開が告知されていたという、事前に分かってたら絶対にこのタイミングで自分の作品なんか発表したくない日にとんでもない漫画がジャンプ+上で発表された。

「へのへのもへじと棒人間とパンツ」の表紙。

「へのへのもへじと棒人間とパンツ」である。結構長いタイトルだが読んで1時間で既にリスペクトが止まらないのでタイトルに言及するときは毎回略さずに書く。お許し願いたい。

「へのへのもへじと棒人間とパンツ」は、自分の容姿を他人はおろか自分すらも棒人間として認識してしまう病「棒人間症候群」を患う主人公佐藤と、そのクラスメイト分目(わんめ)咲との恋愛模様を描いたラブコメディである。この作品を読んで、あまりに衝撃を受けたので今勢いでこの文章を書いている。それ故乱文が所々に見られると思うがお許し願いたい(2回目)。


1.作者:林快彦先生の略歴

この漫画の作者である林快彦先生は、まだジャンプでの連載経験がない新人である。恐らくジャンプ媒体での初掲載は去年発表された「ラブリー・ランナーズ・ハイ」だと思う。陸上競技に打ち込む二人の少年少女を描いた本作では10代の繊細な心情を爽やかに描いており、この時点で青春ものに関しては高い描写力を持っていた(もし別の作品あったらごめんなさい)。

さて、ここで林快彦という名前に聞き覚えがあった方もいるかもしれない。この林先生、先月の週刊少年ジャンプにて「絵に描いた餅を描いた餅」という読み切りを発表している。以下のリンクから全ページを読むことが可能なので、そちらも併せて読んでほしい。

「絵に描いた餅を描いた餅」では「ラブリー・ランナーズ・ハイ」とは対照的に、吹奏楽と漫画という異なる分野で努力する二人の少女を描いており、挫折から再び歩き出す描写により磨きがかかっている。

そして今回の「へのへのもへじと棒人間とパンツ」はこれまでの部活×青春というテーマとは異なり、「棒人間に見える病気」というコミカルなシチュエーションをベースとした青春ドラマが展開される。とにかく最高の読み切りだったので「ヒロイン」と「構成」という2つの観点から「へのへのもへじと棒人間とパンツ」の魅力を説明したい。

2.令和に爆誕した最高最強のツンデレヒロイン「分目咲」

「ツンデレヒロイン」というと、誰が思い浮かぶだろうか。
例えば「とらドラ!」の逢坂大河や「ゼロの使い魔」のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、「このライトノベルがすごい!」女性キャラクター部門最多1位獲得という記録を持つ「とある」シリーズの御坂美琴などが挙げられる。少年ジャンプ系のヒロインだと「ニセコイ」の桐崎千棘や「ONE PIECE」のナミが該当するだろうか。基本的にそっけなかったり、突き放すような「ツン」のコミュニケーションを取りながら、たまに主人公への好意が「デレ」という形で観測される、そんな「ギャップ萌え」を前面に押し出したキャラクターたちが多くみられる。

だが「へのへのもへじと棒人間とパンツ」のヒロイン分目咲は、たった46Pで今並べたキャラクターたちの最高火力に匹敵するツンデレパワーを持っている。ここからは本格的にネタバレになるので、可能なら冒頭で掲示したURLから読み切りを読んでから見てほしい。

まず、この分目咲、登場シーンの時点で主人公:佐藤のことが好きである。

分目咲の初登場コマ。

右にいる黒髪のクラスメイト、山下さんの表情がすべてを物語っている。
もう100%(またやってるよ分目さん……)である。

ちなみにこの時点での2人の学年は小学4年生。まだグラビアの袋とじも開けたことがない年齢の少年がこの機微を感じ取るのはなかなか難しい。

ちなみにそのあとすぐのコマがこれである

「やめなよぅ咲(、そんなんじゃいつまで経っても気付いてもらえないよ)」
まで読めた。

絶対にどっかのタイミングでイジりから好意に変わったのが確信できる。
素晴らしい。最高。エクセレント。

そんなこんなで分目さんは「佐藤の棒人間症候群を治す手伝い」という名目で動物園に双方の家族と一緒に行ったり、水族館に二人きりで行ったりと順調にツンなまま関係を深めていくのだが、あろうことか佐藤は小6のある日、山下さんに告白してしまう。なぜなら小学生男子にはツンデレなどという概念は理解できないからだ
山下さん(というか佐藤以外のクラスメイト)は分目さんのクソデカい愛に気付きまくっているので、咄嗟に「棒人間だし……」とまあまあ手酷い理由で佐藤の告白を断る。こんなもん目撃した暁には普通のツンデレヒロインなら拗ねて毛布に包まって何日か学校を休むだろう。なんなら熱も出す。
だがこの読み切りは46Pしかない。そんなことやってる場合ではない。

「へのへのもへじと棒人間とパンツ」最大の激アツシーン

なんと山下さんへの告白事件当日の放課後に告白返しを発動。
令和最強のラブコメディが爆誕した瞬間である。

いやマジでなんなんだこれ……すごすぎるだろ……ここからのブチギレ告白シーンはぜひ読んで直にその火力を食らってほしい。
しかもこの分目咲とかいうヒロイン、このシーンの時点で既にあと20ページちょっとしかないのに「着替え覗かれグーパン」「主人公と学校サボり」「主人公と倒れ込みキッス」のツンデレヒロイン実績全部解除する。今自分で書いてて普通に信じられない。マジでなんなんだコイツ……

佐藤に対する真っすぐな𝓑𝓲𝓰 𝓛𝓸𝓿𝓮...を圧倒的な疾走感で我々に叩きつけた分目咲だが、この魅力には林先生の時間経過の描写が大きく影響している。


3.46ページに凝縮された「9年間」

先ほど解説したコマの中にもある通り、佐藤と分目さんは小学1年生から交流があることが明言されている。更に、棒人間症候群の治療法の手がかりが示されてから2年間、告白事件が発生するまでに経過している(その2年間は治療の協力という名目でそれまで以上に交流があった描写もある)。

MAX約6年分の思いを粉々に粉砕された劇的瞬間

そこに来てのこれ、本来小学6年生が耐えられるダメージじゃない。人生の半分を掛けて埋めてきた外堀が突貫工事でぶっ壊されたようなものである。むしろこの状況から即告白に切り替えられた分目さんのメンタルには手放しの称賛を送りたい。どっかの恋愛頭脳戦してる高校生は見習ってほしい。
そしてこの騒動からさらに作中では3年の時間が経過し、最終的に二人は中学3年生にまで成長する。

ここまで書いた通り、この作品は、主人公たちの9年間が行間(?)を含めて読まれるように構成されているのである。
「へのへのもへじと棒人間とパンツ」で実際にコマとして描写されているのは「小学4年生」「小学4~6年の経過」「小学6年生」「中学3年生」のみだ。それにもかかわらず、読んでいくと「小学1年生~3年生」「中学1年~2年」の二人の関係性が不思議と見えてくる。佐藤と分目さんの二人以外に登場する、山下さんをはじめとしたクラスメイトや、その他の細かなシーンでその部分がふんわりと補完されるのである。正確には「自分がイメージした二人の生活」に対して登場人物たちが補助線を引いてくれているような感覚だろうか。これが読みやすさと満足感の両立の大きな力になっている。
「へのへのもへじと棒人間とパンツ」以外の2作品も、年単位の時間経過を用いて物語を進めている。林先生はその時間経過で省かれた期間から、物語のスパイスとなる部分を抽出するのが非常に巧みであると私は感じた。

棒人間というビジュアルのインパクトが強い主人公に負けないキャラクター性を持つ分目咲という令和のツンデレヒロインと、巧みな時間経過の描写、この二つが作品の大きな魅力となっている。


さいごに.ラブコメディに一番必要なもの

「へのへのもへじと棒人間とパンツ」は最後までカラっとした空気感で物語が進んでいく。「棒人間症候群」という設定一つ取っても、自分の姿が認識されないことに懊悩し、「なぜ自分だけ・なぜ自分が」と葛藤する主人公がいてもおかしくないだろう。圧倒的な異物として、クラスコミュニティから排斥されるような作品だって描けるだろう。しかし、「へのへのもへじと棒人間とパンツ」ではそんな描写は一切見られない。むしろ、棒人間であることを登場人物のほとんどが個性の一つとして受け入れ、佐藤をクラスの一員として示している。更には、最後「自分の顔で告白したい」という実に愛のある理由が示され、棒人間症候群は完治するのである。これをラブ(愛の)コメディ(喜劇)と呼ばずしてなんと呼ぼう。
こんなに明るい話は久々に読んだ。最初から最後まで二人の愛が真っすぐに物語を前に前に突き進めていく「へのへのもへじと棒人間とパンツ」は、令和最強のラブコメディであると、最後に改めて伝えたい。ラブコメディに一番必要なのは「明るい愛」である。林快彦先生の次回作にも大いに期待したいところだ。


おまけ:ちょっとした宣伝

正直もうここまで読んでもらった時点でほかの望みはあってないようなものなのですが、一応いくつか宣伝を。

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私が所属する「早稲田大学負けヒロイン研究会」のnoteです。
ちなみに私は早稲田生ではありません。

負けヒロイン研究会会誌「Blue Lose」の販売ページです。

改めて、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。


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