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ー私はウタに向き合えなかった―「ONE PIECE FILM RED」感想

はじめに

「ONE PIECE FILM RED」(以下「RED」)が私のTLであまりにも賛否両論だった。そこまで意見が割れているとなると興味も出てくる。最近パチンコの調子が悪い※し気分転換も兼ねて見に行こう。見た。せっかくだし感想を書こう。このnoteは概ねそのくらいの気持ちで書いたものです。なので別に本編と映画の違いがどうとか伏線がどうとか批評的な観点だとかを持ち込んだ内容ではありません。ただ「ウタ」というキャラクターについて自分が感じたことはできる限り書いたつもりなので、そうした部分に注目しつつ読んでいただき、なおかつこの感想の感想なんかを送ってくれると非常にうれしく思います。なお、当然ですがこのnoteは「RED」に関するネタバレも含まれているので、未視聴の方は劇場でご覧になってから読んでいただければ幸いです。

※知り合いから「彼女ができた」と聞かされてから4連敗していた

■「ONE PIECE FILM RED」の大まかなストーリーとその評価

大まかなストーリー

  まず、ストーリーを振り返りつつその感想を述べていきたい。「RED」のストーリーについては、映画パンフレットから文章を拝借する。

(前略)全世界待望のライブが幕を開け、ウタは圧倒的な歌声と華やかな演出で観客を虜にしていく。豪華な料理に夢中のルフィだったが、ステージに立つその姿を見て驚く。彼女は子どもの頃からよく知るシャンクスの娘だったのだ。再会を喜ぶ二人だが、ルフィが海賊になったことを知ると、ウタの表情が曇る。(中略)ウタはライブを利用して、ある計画を実行しようとしていたのだ。その野望に気づいた世界政府の名を受け、海軍が大軍を率いて押し寄せる。だが、ウタの能力は海軍の予想をはるかに超えており、ついにエレジアの地に眠る伝説を呼び覚ましてしまう。ウタの野望を阻止するために戦う麦わらの一味。
そして、あの男が姿を現した時、真実が明らかになる――。

劇場パンフレット「ONE PIECE FILM RED」より

以上が、「RED」の大まかな流れになる。正直自分はワンピースにわかファンなので、ストーリーの感想については観賞直後に書いた以下の箇条書きに留めておきたい。考察とかできない。ちなみにIMAXで視聴した。

ざっくりした評価(箇条書き)

・冒頭のライブシーンのパワーエグすぎてIMAX代500円は開始5分で元取れたなと思った

・クラゲ海賊団が麦わらの一味とビック・マム海賊団幹部に対して一歩も引かなかったの心意気に溢れすぎててちょっとカッコよかった

・バルトロメオマジでルフィ信者なんだなって……

・シャンクスがめちゃめちゃ闘ってて良かった
(余談:友人(未視聴)からシャンクスの剣について聞かれまくったが「なんか……覇気で黒刀になってた……気がする……」くらいしか言えなかった)

・ウソップとヤソップの見聞色が繋がるのがアツい。シャンクスとルフィの一撃も含め、ラストバトルの共闘は劇場の迫力で見て正解だった

・ストーリー全体を見ると若干粗があったかなーという印象。ウタの計画の動機付けもなんだか甘い気がした(まあ9歳であのおっさんと2人ぼっち生活12年だしな……精神性あんま成長せんか……と納得しておく)

・観客に10代が多く開始寸前まで喋り声が聞こえて(レイトショーにしておくべきだったか……?)と最初思ったが、Adoの歌声で全員黙ったので感心してしまった

帰り道のシーシャ屋でもAdoの新時代が流れてきたのでまだ口の中で噛んでいるのに飯突っ込まれた気分になった

細かなメモはもう少しあるのだが、全体としては「Adoの歌唱とアツいアクションシーンが多く楽しめたが、ストーリーはもう少し練れた、あるいは上映時間が必要だったのではないか?」という感想である。

 ここからは、「RED」の最重要キャラクター「ウタ」について考えたことを述べていく。

■ウタというキャラクターについて

ウタのプロフィール

 まず、ウタというキャラクターについて簡単に情報を整理してみよう。
・ONE PIECE世界で圧倒的な人気を誇る歌姫
・シャンクスの(義理の)娘
・ルフィの幼馴染(2歳年上)
・歌を聴かせた相手の意識を夢の世界に落とすウタウタの実の能力者
・本作のヒロインでボス

盛りすぎだろ。簡単に整理して箇条書き5個にならないだろ。

 ともかく、ウタは「RED」においてヒロインとボスという本来全く異なる役割を一人で担っている。そのために「RED」の展開はすべてウタを中心として進行していく。ここからは、ヒロインとしてのウタ、敵役としてのウタに分け、それぞれについて述べていきたい。

ヒロインとしてのウタ

 ヒロインとしてのウタが持つ要素について考えてみよう。
・シャンクスの(義)娘
・ルフィの幼馴染
ついでに言えば(「いや重要だろ!」と怒られました)年上のお姉さん
・世界で人気の歌姫
「夢女子かよ」というツイートが散見され「夢女子……?」となった(情弱)ので夢女子について調べてみたが同じ感想です。夢女子かよ。

あと「出たー、負け惜しみ~!」←これ好きすぎる。なんだあの指の動き。あの動作がかわいいと気付いたやつ、天才か?

 こうした幼少期のルフィに近しい存在のヒロインというキャラクターはこれまでの映画ヒロイン、本編のキャラクターを含めてもとりわけ特異である。ルフィが映画で限界まで説得を試みたのも、幼馴染である以上当然といえば当然だろう。ヒロインとして考えたとき、ウタの最期はその才能によって多くの人間を殺め、その罪悪感に苦しみながら、世界を救うための計画を実行した末に死を選んだ。そんな悲劇のヒロインであるといえるだろう。

敵としてのウタ

 敵としてのウタの要素は以下の通り。

・歌声を聴かせた相手を夢の世界「ウタワールド」に取り込んだ
・自らが死ぬことによって世界中の人々を「ウタワールド」に閉じ込め、意識だけの存在として永遠に幸せに過ごさせる計画を実行した(成功した場合は世界人口の7割がウタワールドに取り込まれて死亡していた)
・ウタウタの実の能力者だけが召喚できる魔王「トットムジカ」(よくわからんけど古代兵器くらい強そう)をウタワールドと現実世界に呼び出す

んー強い。ウタワールドだとウタが望んだことは全部叶うっぽく、ウタワールド内ならチート武器チート技使いたい放題だったのでマジで強かった。しかも最終目的が世界征服とかじゃなくて世界全体と心中なので交渉の余地がほとんどないうえに、現実世界の自分が死ぬことで計画が完遂されるので外部からの攻撃も難しい。ゲームだったら1回はコントローラーを投げてる位に初見殺しキャラである。CP0、SWORD、ニコ・ロビンのONE PIECE世界3大攻略wikiがなければマジで詰んでた。
 
敵として見たとき、ウタは歴代最強クラスの強敵だったともいえる。ルフィは幼馴染だから後半まで攻めあぐねてたし。

名塚佳織とAdo、二人のウタ

 さらにウタには、ヒロインと敵という両面だけではなくキャストにも2つの側面がある。声優の名塚佳織と、歌唱のAdoである。

ウタのキャスト。名塚佳織/Ado。
この画像見続けてると遠近感狂う……狂わない?

 この「演技と歌唱でキャストを分ける」という手法が、ウタという強烈なキャラクターの最大の要素であるといってもいい。こうした手法をとった他のキャラクターは「マクロスF」のシェリル・ノームなどが有名だろうか。こちらも銀河を代表する歌姫というキャラクターである。

シェリル・ノームは声優を遠藤綾が、歌唱をMay'nが担当している。
「マクロス」シリーズではこの手法が取られるキャラクターが多い

 演技と歌唱のキャストを分けることにはいくつかのメリットがある。
 1つは当然ながらクオリティの向上だ。声優と歌手がそれぞれ得意な分野を担当することで、演技も歌声もより高いクオリティになる。そしてもう1つは他のキャラクターとのギャップである。高い歌唱力と演技力に下支えされたキャラクターは、作中でも特殊な存在感を放つ。「RED」でもウタの存在は異常なほどに浮いた存在であり、強いインパクトを視聴者に残した。

 以上のように、ウタはとにかく存在感が強かった。2時間もの間、観客も、登場人物たちも、全員がウタのことを考えていた。ある意味、彼女はずっと舞台の真ん中にいたといえるだろう。

 しかし、私にとって、「ヒロインとボスの一人二役」「声優キャストと歌唱キャストの分割」という2つの大胆なキャラクター造形は「ウタ」というキャラクターを「認識」するうえで大きな枷になってしまった。

私はウタに向き合えなかった

 ここまで述べた通り、ウタは基本的に異なるキャラクターに割り当てられる「ヒロイン」と「敵役」という2つの役割で、そして声を「声優」と「歌唱」の2人で作った特殊なキャラクターである。実際、これだけ多くの要素を備えているウタは、長い「ONE PIECE」の連載期間を通して既に多くの描写がなされた既存のONE PIECEキャラクターにも負けない深みを見せた、と私は感じている。
 だが、私は最後までウタを一人のキャラクターとして見ることができなかった。
 
私は観賞中、歌唱パートではAdoの歌声を、演技パートでは歌唱パートとのギャップを受け入れ、ウタという「キャラクターの器」に落とし込む作業を続けた。しかし、ストーリーではヒロインでありながら世界を滅ぼしかねない大悪党である。シーンごとに目まぐるしくウタから表出され続ける様々なウタを、私は同一視することができなかった。恐らく冒頭のライブシーンを大いに楽しめたのも、私がその時点ではウタを単なるゲストヒロインとして認識していたことが影響しているだろう。

 もしもウタが「ただの」世界の歌姫であり、その能力を人々をウタワールドに閉じ込めるために使おうと考えなければ、きっとその能力を狙った者たちが「RED」の敵になっただろう。クラゲ海賊団や、ビック・マム海賊団、あるいは海軍組織のどこかが。そして、ヒロインとしての役目を全うできただろう。あるいは単なる極悪人であれば、ルフィの幼馴染でなければ、ウタではない別の幼馴染が現れ、ヒロインになる可能性もあっただろう。
 もしもウタの声が一人で作られていれば。その歌声がたとえ今のウタほどの強烈な個性や話題性を持たなくても、その演技が今のウタと比べてどこかたどたどしかったとしても、私はウタを真正面から見ることができたのかもしれない。
 だがウタは「RED」における敵でありヒロインであり、主人公の幼馴染であり、四皇の娘であり、ウタウタの実の能力者であり、実力派キャスト2人によって命を吹き込まれた1人の女の子だった。
 1人の女の子だった。それでも私の中では1人にならなかった。最後まで私はウタに向き合えなかった。

おわりに

 最後まで読んでいただきありがとうございます。「RED」を鑑賞して、自分が「ウタ」という人物に感じたことがうまく伝わっていれば幸いです。最後に、私が所属している負けヒロイン研究会に関するリンクを置いて終わりたいと思います。

早稲田大学負けヒロイン研究会のnoteです。

負けヒロイン研究会会誌「Blue Lose」の販売ページです。

負けヒロイン研究会会長:舞風つむじ氏主宰の「明日ちゃんのセーラー服」同人誌に関するリンクです。負けヒロインどこ行った。

私のnoteです。


 改めて、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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