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消えた寝台特急札幌行き

北へ行くなら…
飛行機?
フェリー?
新幹線?

北へ行くなら…
寝台特急がいい。

駅弁を買って寝台特急北斗星に乗り込む。
長距離列車に乗り込むときのワクワク感がたまらない。

一人旅ならソロ(一人用個室B寝台)がいい。
狭いが自分だけの空間。
荷物を整理して、駅弁を食べる。

駅弁の味に気を取られ、
気が付けば、ゆっくりと走り出した北斗星。
窓外は街の灯りがまぶしい。
いくつもの都会の駅を通過していく。
ホームにあふれる人。
お疲れさまと声をかけたくなる。
明日は北の大地にいる不思議な余裕。

大宮を過ぎれば窓外は暗闇が増える。
眠気がやってくる。
カーテンを閉め、ベッドに横になる。

うつらうつらとして眠りにつきそうになる。
明日朝気づけば函館あたりか?
眠りについた。

どのくらいの時間が経過しただろうか。
列車がどこかの駅を発車して、目が覚めた。
さあ、窓外は函館駅ホームか?
ブラインドを少しばかり開けて外を見れば、
宇都宮。

再び眠りについた。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
列車がどこかの駅を発車して、目が覚めた。
さあ、窓外は函館駅ホームか?
カーテンを少しばかり開けて外を見れば、
福島。

再び眠りについた。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
列車がどこかの駅を発車して、目が覚めた。
さあ、窓外は今度こそ函館駅ホームか?
カーテンを少しばかり開けて外を見れば、
仙台。

私は眠りが浅かった。
列車が発車するたびに目が覚めた。
客車列車の難点は、発車するときに必ずその振動が伝わること。

盛岡でもやはり目が覚めた。
県庁所在地だよと誰かが教えてくれているかのよう。
外が雪景色になっていた。
だいぶ北へ来たなと思った。

再びに眠りについてまた目が覚めた。
窓外は規則的に灯りが後方へ去っていく。
トンネル。
走行音が独特の音。
おそらく青函トンネル。
また眠りについた。

次に目が覚めた時、やっと函館だった。
寝台列車でたどり着いた函館。
かつて、青函連絡船で函館についたときは、思えば遠くへ来たもんだと感動さえしたものだったが、この時はそこまでの感動は起こらなかった。

函館駅

電気機関車からディーゼル機関車に付け替えるために停車時間がやや長い。

ホームに降りた。
寝ぼけた目を一瞬に覚ましてくれる冷気に襲われた。
一分もたたないうちに車内に戻った。
目が覚めた。

ここから終点の札幌まで約300キロ。
東室蘭までは噴火湾をのぞむ非電化路線を走る。
北斗星は逆方向に走り出した。
北斗星にとって函館はスイッチバック駅だから。

駒ヶ岳

函館からはほとんど眠りにつくことはなかった。
大沼、駒ケ岳を横目に山間を走行する。
いかめしの森をでると、右車窓に噴火湾が広がる。
今回の旅で初めて見る海。
落部(おとしべ)という小さな駅で運転停車した。

北斗星を追い抜いたスーパー北斗(落部にて)

運転停車は客の乗降を取り扱わない停車。
なぜ止まったのだろうと思っていると、隣のホームを札幌行きの特急スーパー北斗が走り抜けていった。
特急が特急を追い抜いて行った。
ああ、こんなこともあるのかと少々驚いた。
この当時のスーパー北斗の最速列車は函館札幌間を3時間で結んでいた。
表定速度100キロという高速列車だった。
北斗星は星のない奴に軽々と抜かれていった。

車窓には積雪量こそ多くはないが白い風景が延々と続いていた。
そして延々と穏やかな噴火湾が広がっていた。
朝日がさして、まぶしくなりブラインドを閉めた。
前日買ったもう一つの駅弁を食べ朝食を済ませた。

噴火湾

静狩駅を通過して、ブラインドを開け車窓を凝視した。
秘境駅小幌を見るためだ。
小幌はトンネルとトンネルに挟まれた狭い場所に小さなホームしかない無人駅。
一瞬の油断で見逃す可能性がある。

秘境駅小幌

小幌だ!
焦ってシャッターをきった。
少し早すぎた。

再び眠気が襲ってきた。
頭の中はぼんやり。
車内アナウンスが「東室蘭です」「苫小牧です」「南千歳です」と放送されても、ブラインドを開けて窓外の風景を見る気力がなくなっていた。
何度も寝ては起き寝ては起きをを繰り返しているので、本当に眠くなっていた。

ぼうっとしながらブラインドを開けると大きな町だった。

終着の札幌。

コートを羽織り、ザックを背負って長時間揺られてきた北斗星を降りた。
肌を刺す寒さが気持ちよく感じた。
適度な疲労感と、ホームに降り立った時の解放感、やっとたどり着いたという感じがみんな心地よい。

隣のホームに到着して間もない北斗星

札幌は旅の中間点。
道東納沙布をめざして旅は続いた。

眠りについて目覚めたときは、遠くの町。
飛行機や新幹線では味わえない良さがここにはある。
乗りなれてしまえば、レールのつなぎ目は心地よい子守唄。
寝台特急列車。

利用者が減った。
利益が出ない。
車両が古くなってメンテナンスに金がかかる。
寝台特急北斗星廃止。

本当にこれで良かったのだろうか?

北へ行く寝台列車の復活を願いたい。



※タイトル画像は上野駅の北斗星(左)とカシオペア
 旅の記録と写真は2010年1月