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重度身体障がい者が地方から東京で一人暮らしするときに読んだら参考になるかもしれないエトセトラ【後編】

どうも、ホッシーです。

この前置きを書いている今、ちょうど東京に引っ越してきてから1ヶ月半が経ちました。

引っ越してきた当初は

「土地勘に慣れなきゃなぁ」

とか

「電車バスを使いこなせるようになりたいなぁ」

と思っていろんなところを巡っておりましたが、
最近はようやく家の中も落ち着いてきたので、家の中で安定して過ごすためのマイルーティンを構築している日々です。

さて、引っ越し体験記も後編。
今回は物件が決まって住み始めるまでの経緯を書いていきます。

一応こちらがシリーズ最後となりますが、後日譚が結構あるのでまたそれもぼちぼち書いていこうと思います。

それではどうぞ!

引越し準備 〜賃貸契約編〜


さて、物件が決まったところで次に待ち構えているのは「賃貸契約」です。

逸る気持ちを抑えきれず勇み足で契約に漕ぎつけようとしましたが、実は以前から「一つ注意しなければならないことがある」と一人暮らしをしている車椅子ユーザーの先輩のほとんどから言われたことがあります。

それは、

「貯金や収入が一定額ないと賃貸の契約ができない」

というものでした。

まず賃貸を契約するにあたっての大前提として

「毎月家賃を払うことができる」

という条件があります。

支払い能力の判断の為にはその人の「貯金」か「年収」を見るわけです。

一般的に生活費の内訳を考えると、お給料など月に使える金額の3分の1ぐらいを家賃に充てるというのが相場のようで、それがちゃんと可能かどうか「年収」という項目で判断するようです。

ただ、これはあくまでもお給料を貰っている年齢の話であり、例えば学生であればまた基準は変わってきます。

何かしらの職に就いていない場合でも「貯金」などを見て、とにかく

「支払い能力があるか否か」

を見るわけですね。

幸いなことにわたくしホッシーは、仕事を始める頃から一人暮らしを念頭に置いて毎月一定額貯金をしていたので、周りから言われていたような貯金の有無に関する不安については比較的ハードルが低く、

「はい、大丈夫ですよー!」

と管理会社の方からあっさり言われて何とか契約することが出来ました!(運が良かった…)

ただ現状、重度肢体不自由を持っている方々の中で所得が一般就労と同じぐらいあるという方の方が圧倒的に少ないため、わたくしの事例は本当に、本当に参考にならないと思います。

なので、一般的に重度肢体不自由をお持ちの方が一人暮らしをする際の現状の金銭的なやりくりをどうしているのかというのをいくつか紹介しておきたいです。

まず、一般的に結構多いのは

「世帯分離後に生活保護を受給+障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)」

かと思われます。

重度障害をお持ちの方はお分かりかと思いますが、何かしらの病気や障害を持っていると「障害年金」を受け取ることが可能です。

ただ、それだけだと生活を営むには心もとない額ではあるので、ここで「生活保護」を受給することを検討するわけです。

生活保護は受給の条件に様々な制約があります。

例えば

・家族と住んでいる場合は、その家族が非課税世帯でない限り個人では受給できない
・他法優先の原則があるため、障害年金を受け取りながら生活保護を丸々受け取れる訳では無い

などいろいろな制約があります。
ただ、逆を返せば

「引越しなどをして世帯を分離した後に障害年金+生活保護の併用は可能になる」

ということも言えるわけです。

実際にインタビューさせていただいた当事者の方の中にこの方法を取って生活されている方がいらっしゃいました。

もう1つは
「日中は就労支援AないしはBで働く+障害年金」
というパターン。

一般的に一人暮らしを始めるのは概ね高校卒業後、つまり18歳を超えたあたりから始める方が多いと思われますが、その頃になってくると人によっては手に職を付けていたり、大学生の傍らバイトをしてお金を稼ぐことになります。

一方で障害を持っている方、とりわけ重度肢体不自由を持っている方が支援学校卒業後に辿る進路となると、一般的には

・生活介護
・就労継続支援A型
・就労継続支援B型
・就労移行支援

のどれかを利用することになります。

就労移行支援は、ある程度一般的な会社で就労可能な方を、2年間の訓練期間を設けて会社に入るためのノウハウや仕事を覚える支援をする場所です。
職業訓練校と同じような感じですね。

就労継続支援のA型は、福祉就労を行っている事業所や会社の中で、一般的な会社のように契約を結んでそのルールにしたがって働く、いわゆる「雇用」というものがある支援形態で、B型はそうした雇用がない状態で作業量に応じて工賃を貰うという支援形態となっています。

生活介護は、就労が困難な方が日中を過ごす場所を提供する支援です。

これらの支援形態は、一概に「こっちの方が上、下」というものはなく、重度肢体不自由の程度どれひとつを取っても事例が同じということはないので、人によって必要な支援に合うものを利用しているのです。

ただ、一人暮らしの生活費を維持していく為にはある程度のお金が必要にはなるので、自分に合う形の就労支援を受けるのが良いかと思います。

この辺りは地域によってまばらなので、相談支援員さん(障害を持っている方と行政や事業所などの諸機関を繋ぐ役割の方)と相談することをおすすめします。

とはいえ、こと重度肢体不自由を持っているとなると、どれだけ知的では定型であっても働く場所は少ないのが現状です。
最近ではOriHimeなどのようなテレワークスタイルでの働き方も出てきたところですが、皆が皆コミット出来るわけではないというのが現状です。

そんな中で最近、テクノツールは株式会社LITALICOと共に
「テクノベース株式会社」
を設立することになりました!

ここでは、そういった現状の課題に取り組んでいくので、

「皆さんしばしお待ちください…!」

といった気持ちでいるところです。

引越し準備 〜転入届と生活構築編〜


さて賃貸の契約が完了したところで、お次は住所変更と生活支援を受けるために最寄りの役場へ向かいます。

引越しの際に必要になる転入届・転出届の辺りの話はいろんなところに転がっているので割愛致しますが、重度肢体不自由を持っている方にとって必要な情報は「その後の制度や諸機関への連絡をどうするのか」というところかと思います。

わたくしホッシーが体験した例で話していくと、大まかに

・引越し先で利用できる制度の説明を受ける

・金銭やサービス等で必要なものに関して書類提出

・役場の担当者、相談支援員、理学療法士、福祉用具販売会社の決定

・これから住む家の中をアセスメント(評価)して、どういった福祉用具やサービスが必要になるかを考える

・サービス利用時間、必要な福祉用具、などの支給決定

といった流れで動きました。

この際、事前(物件契約をした直後)に役場の方に

「4月から生活するために〇月〇日にそちらに伺って転入届を出します」

と連絡を入れ、ある程度の準備期間を設けておきました。

転入届を出さないことには役場側も身動きが取れませんが、かといって転入届を出して住み始めた後に諸々の契約をするということは、衣食住を自分でこなすことが出来ない状態で何も支援の無いまま生きていくことになるためほぼ不可能です。

この辺りをスムーズに移行するために(全然スムーズにはいかないですが)、4月からの生活を逆算して2月頃から準備を始めました。
(ちなみにこの間に空家賃が発生します。これがきつかった。)

転入届を出す日に各制度の説明や、それを受けた書類提出を行います。

ここでは

・給付金や年金の支払い先
・移動サービスや福祉サービスの書類提出

など思い出せないほど大量の書類に名前を書いて提出を繰り返しました…!(さすがに多すぎて同行してくださった相談支援員さんに代筆をお願いしました!!)

この説明、わたくしの場合は思い出せないほどの情報量で頭のキャパシティがオーバーしましたが、結構覚えておいた方が身のためだと思います!!

その次は実際に自分が住む家に行って、この部屋に必要な福祉用具とヘルパーさんを利用するときの生活動線を考えます。

あまりにも狭すぎるお風呂やトイレをどのように使うか、ヘルパーさんにお願いする範囲やヘルパーさんがいない間の生活をどうするかなどを加味しながら、必要な支援や道具、時間数を考えていきます。

それと同時に、引越し先で役場と事業所などの諸機関と連絡を取って生活を構築していくために相談支援員さんを見つける必要もありました。

この辺りが全てスムーズに見つかったり決まったりすればハッピーで埋めつくしてレストインピースまで行けるわけですが、なかなかそうもいかないのが事実で、

「申請がおりた!」

と思ったら

「相談支援員さんが見つからないから動けません!」

とか

「相談支援員さんが決まりました!」

となっても

「必要な時間に入ってくださる事業所が見つかりません!」

というのを繰り返していくわけです。

それもそのはず。
人づてに

「今は介護事業をやっている事業所自体が少ないし、どこもキャパシティがないからなかなか難しいかもよ」

と言われていて、あれは本当だったのだと思い知るのがこの頃です。
この時期は本当に毎日ハラハラしていて、ストレスで胃腸炎を引き起こすほどにまでなりました!!

そんなこんなが続いて必要な支援を受けられる目処が立ったのは引越しをする前日でした。

そして更に制度やサービスを整えるだけが引越しではありません。

以前住んでいた家には自分の家財道具がほぼ無いため、自分で家具家電を揃えなければならないわけです。
そしてそれを自分で設置したり準備したりできないため、引越しの際は自分が持っている全ての有り金を使い、繋がりをフルで活かして…

なんとか引越しできました!!

(引越しを手伝ってくれて、地元から東京まで来てくれた家族や友達には本当に頭が上がりません…ありがとうございました!!)

終わりに


さて、無事に(?)これで引越しができました。
引越しをして、一人暮らしが始まって、

「さぁ!全てが良くなりました!」

なんてことは無いのが人生ですね〜!!

またここから

・初めて利用する重度訪問介護利用の難しさ
・大丈夫だと思っていた家具家電が全然大丈夫じゃなかった
・自分の生活にプライオリティを置きすぎたが故に、他の生命体が住みづらい環境を作り上げてしまった
・生活というものへの解像度が低すぎたが故に、何か大事な部分(掃除や炊事など)の綻びが多すぎる

など問題が山積みになっていくわけです。
(この当たりも後日書いていきます!)

兎にも角にも無事スタートラインに立てたことを今は喜んでおきたいなと思います。


ちなみに結構自炊はしている。

さて、話は変わりますが、自分の引越し話を周りの方々にすると必ずと言っていいほど言われるのが、

「ホッシーは本当に運がいいよね、選ばれし人だよ」

という一言。

正直これを言われてしまうとぐうの音も出ないわけです。

誰でも出来るわけでは無いかもしれないし、正直運ゲー要素があまりにも強すぎるわけです。

ですが、そんな中でも言いたいのは

「自分は選ばれし者だったわけではなくて、難しいと分かっていてもその方向を『選んだ』」

ということです。

東京で生活してみて、今のところ何かが良くなったか?と言われたら、会社や会社が関わるイベントに顔を出しやすくなったぐらいで、特に何かが変わったわけではないんです。

むしろ前の生活の方が自由だったし、理解して下さる方も多かったし、何より

「何かあった時に頼れる人がいる」

という精神的な安心感があったのだと今になって思い知ったわけです。

一人暮らしをする、だけではなくて今まで持っていた環境を置いてまで虚無な環境に身を置くというのは、「自立する」というだけではない何か別の黒いものがあるなぁと最近は感じます。

それでも自分が一人暮らしをするという方向を選んだのは、noteや様々な場面でも言ってきたように

「後に続く自分と同じような当事者に、もっと選択肢を増やしたい」

というのを何かしらの形で実現したいからに他なりません。

この記事で

「ほーん、結局運ゲーかいな」

と捉えてもらっても構いませんし、

「やっぱりそんだけ大変なことをしないといけないんだな…」

と捉えてもらっても構わないと思っています。

ですが、一番言いたいのは

「やりたいなと思ったことを選んで、何かしら動いてたらいずれ形になる」

ということです。

その「選んでいく」作業の中で、やっぱり何か一つでも工程が楽になるよう力になれることをしたいと最近は殊更強く思っているところです。

わたくしが重度肢体不自由を持って一人暮らしをするにあたっては、多くの先人たちが残してきた知恵を受け継いで今があると思います。
その先人たちに伝えきれない感謝の気持ちを抱きながら、自分の経験も踏まえてその知識を体系化して、何かの参考になったらなぁと思いここに記しておきます。

というわけで今回はこの辺で!


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